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精霊との対話をしてみましょう

 夢を見た。前世の私の夢を。中小企業で働いていた私の夢だ。仲のいい友人もいて、夢の中の私は仕事終わりに友人と楽しく食事をして愚痴を言い合っていた。そして愚痴からハマっている乙女ゲーの話に変わり推しについて語りだす友人に、私は相槌をうっている。そうだった、そもそも私はこの乙女ゲーに興味なんて一切なかったのだが友人の強い勧めでやりだしたのだ。きっかけはなんだったか夢ではそこは曖昧だった。たしか好きな声優がいたとか、好みのキャラがいたとか、そんなきっかけだったような気がする。そしてどっぷりとハマって悪役令嬢のロレーヌが大好きになったのだ。そして攻略対象の一人も大好きになった。だけどやっぱり夢は肝心な部分は朧気で何か言っているのに分らなかった。

 そして遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえ、意識が浮上する。

 ぼんやりとした天井が目に入り次に「ロレーヌ」と私を呼ぶ声がして起き上がった。


「おはよう、ネモフィラ。ごめんね、私、もしかして寝過ごすところだった?」

「そういうわけじゃないけど、ロレーヌがうなされていたから起こした方がいいかなって」

「ありがとう。起こしてくれて助かったわ」


 夢の内容は覚えていない。覚えていないけれど、あのまま夢を見続けていたらきっと受け容れた現実から逃避していた、そんな気がする。

 ネモフィラはすでに支度をすましており、私も洗面所に行き顔を洗い制服に着替え髪を整えた。

 昨夜、二人で今日の授業の準備をして忘れ物がないかチェックしたが再度行ってから、二人で寮を出て食堂に向った。

 朝食を食べ食後の紅茶を飲んでいるとファルダル殿下がイベリスと食堂に入ってきたのが見えた。が、気づかないフリをして紅茶のおかわりをした。幸い、授業にはまだ時間がある。あぁ、時間があるなら図書室に行って本を借りるのもありだったかもしれない。


「ロレーヌ、殿下に挨拶しなくてもいいの?」

「うーん。した方がいいと思う?」

「婚約者だし、気にせずに挨拶したらいいと思うけど」


 そうなのだけど、ファルダル殿下は私の名前を一切呼ばないしイベリスとは食堂に来るのに私とは来ないしお誘いもないし別にいいかぁなんて思っている。でもここで私からも挨拶がなかったら婚約者に浮気されている可哀そうな令嬢っていう立場が無くなる気もする。

 ネモフィラに「待っていて」とだけ声をかけ小走りで殿下の所に行く。


「おはようございます、ファルダル殿下。昨夜はよく眠れましたか?」

「おはよう。あぁ、イベリスがハーブティを淹れてくれてな。おかげでぐっすりと寝れた」

「そうですか。それは良かったです。あぁ、おはようイベリス。殿下の為にお茶を淹れてくれてありがとう」

「殿下のためですから!これぐらい当然です!」


 それはつまり私は気遣いもできない婚約者といいたいのか?と、頬を引き攣らせそうになるも貴族スマイルで誤魔化した。


「でわ、私はこれで」


 ネモフィラの傍に戻ればネモフィラは眉を寄せていた。


「どうしたの?」

「平民でも婚約者がいる相手にはあそこまで図々しくしないのになって」

「いいのよ。彼、最初っから私の事あまり良く思っていないみたいだし」


 冷めた紅茶を飲み干し新しい紅茶を淹れて飲む。

 ここの紅茶も美味しい。流石、王立魔導学園と感心する。あまり飲みすぎるといけないのでもっと飲みたいのを我慢しネモフィラに声をかけて教室に向った。

 迷子になるかと思ったが分かりやすい見取り図があったおかげで迷うことなく教室に着くことができ、教室にはまだ誰も来ておらず、時計を見れば授業開始20分前だった。


「早く着きすぎたみたい。ごめんね、ネモフィラ。もうちょっとゆっくりできるできたのに」

「別に謝らなくても大丈夫」


 教室を見ればすぐに中庭に出られるようなっている。大学の教室みたいになっていたので、せっかくだしと一番前のど真ん中に座り教科書を置いた。

 10分前にもなると魔法使いの適正があった生徒たちが続々と集まって来て、授業開始のチャイムと同時に教師が入ってきた。


「初めまして、私はこの授業を担当しているアルベール・フィルダです。宜しくお願いします」


 ぼさぼさの金の髪に黒縁眼鏡のよれよれのローブを着たアルベール先生は、にへらっと笑う。頼りなさそうな雰囲気だが実はかなりの実力者で彼が使えない魔法はないと言われているぐらいだ。努力する天才肌で元は平民だが今は王宮魔導士の師団長まで勤めながら教師もしているのだから『凄い』の一言に尽きる。そして彼もまた攻略対象の一人である。といっても彼を攻略できるのは二年生から。イベリスが光属性以外にも他の属性が扱えるようになりこのクラスでも授業を受けるようになってからだ。

 アルベール先生は私と目が合うと顔を輝かせた。


「君が精霊使いのロレーヌ嬢ですか!私も微精霊は見ることはできるんですが召喚には応じてくれなくて使えないんですよね。たしかに貴女の周りには沢山の微精霊が集まってきているようです。いやはや、羨ましい」

「先生、それより早く授業してください。何故だか分かりませんがさっきから妙にそわそわして・・・」

「ならロレーヌ嬢、前に出てきてもらいましょうか」

「え」


 なんで私がと思いながらも前に立つ。


「ロレーヌ嬢は魔法を使うきに大事な事は解かりますか」

「イメージとそれを補助できる解かりやすい詠唱だと思います。最初は教科書に載っている詠唱が良いと思いますが、イメージしにくいなら変えた方がいいかと」

「よしよし。よく理解できていますね。じゃぁ、さっそくやってみましょうか」


 自分の教科書を手に取ると先生が「じゃぁ花を咲かせてもらおうかな」と植木鉢を何もない空間から取り出し教卓の上に置いた。

 いきなり?と戸惑っていると耳元から声がした。


『花を咲かせるの?それなら私に続いて詠唱すればいいわ』


 植木鉢に手をかざし、魔力を植木鉢に注ぎ花が咲くイメージを浮かべ、微精霊の言葉通りの詠唱をする。


『咲け 咲き誇れ 乙女の真心よ』


 頭の中に浮かんだのはコスモス綺麗な赤や紫、白やピンクの秋桜。植木鉢に一本~三本ぐらい咲かせればいいと思っていたのに、教卓側一面を埋め尽くすほどのコスモス畑になってしまった。微精霊を見れば、ドヤっと誇らしげにコスモス畑を飛び回っており、先生を見れば苦笑していた。


「微精霊がはりきったみたいですね」

「えっと・・・、はい。少しだけ咲かせようと思ったんですが」

「ロレーヌ嬢の役に立ちたくてしかたなかったんでしょう。さて、席に戻ってください」


 席に戻れば先生は生徒たちを見渡しながら「今のが魔法です。さて、皆さんも庭に出て実践してみましょう」と告げた。

 ネモフィラと庭に出れば様々なものが置かれていた。人形や植木鉢や的、蝋燭など様々だ。

 先生は生徒一人一人の適正に見合ったものを渡し、そして魔法を行使するよう告げた。

 私はさっき植木鉢を使って花を咲かせたので次は火属性を使ってみようと蝋燭を手に取った。燭台に置かれた蝋燭をじっと見つめながら、ゆらゆらと揺れる優しい火が灯るのをイメージする。


『灯せ 闇を退ける安寧の燈火を 幼子の眠りを妨げる恐怖を払うために』


 蝋燭に火が点いたと思ったら先生が傍で見ていたらしく「ロレーヌ嬢、火を灯すだけでいいのですよ」と言ってきた。首を傾げている私に蝋燭を鑑定してみてくださいと言われ、鑑定し絶句。


『蝋燭 付与:精神異常無効 闇属性無効』


 付与魔法なんて知りませんけど?!と驚いていると先生は「うーん」と困り顔。


「どうやらどの精霊達もはりきって色々しているみたいですねぇ。試しにあの的に向ってファイアを放ってみて下さい」


 今度は的だと言われ的に向き直り手を向ける。


『灼熱よ燃やし尽くせ』


 短い簡単な言葉。ただ的がちょっと燃えるだけ。そんなイメージだったのに手から出てきたのは明らかに上級魔法並みの大きな火の塊で、その炎は的を塵一つ残さず燃やしてしまった。


「先生、私、先に微精霊と対話したほうがいいかもしれません」

「そうですね。ところでロレーヌ嬢、魔力の方は?」

「問題ないです」

「ならよかった」


 ネモフィラを見ればキラキラとした瞳を向けて「凄い」と褒めてくれるけど凄いのは精霊だ。精霊がいなければ私は他の生徒と同じようなレベルの魔法しかまだ扱えないはず。


「ネモフィラは何をしているの?」

「人形に魔力を入れて動かそうと思って」


 ネモフィラいわく、魔力を入れることができても自在に動かすことが難しいらしい。確かにネモフィラが動かしている人形はぎこちない動きをしており、歩くのが精一杯といったところ。それでも一年生でここまでできるのはすごい。先生もネモフィラを褒めていいた。

 彼女と同じ空間属性の別の生徒は銃に魔力を込めて放つ事にしたらしいのだが、そちらは全て不発に終わっている。他の生徒たちも魔法を成功させているのはごく一部の生徒のみで他の生徒はイメージ不足なのか上手く発動していなかった。


「先生、精霊の中で比較的大人しいと言われているのはどの精霊ですか?」

「昔、文献で読みましたが草の精霊と書かれていました」

「なら、まずは草の精霊からお話してみます」


 草の精霊さん、と呼べば魔法陣が現れ人型の精霊が現れた。

 白い肌に美しい新緑色の髪は腰まであり、その髪には花飾りが散りばめられている。髪と同じ色の瞳は穏やかで見惚れるほど美しい。四肢も長くロレーヌである私も良い体型をしているがそれ以上といってもいいだろう。踊り子の様な衣装を身に纏っている彼女は「こんにちは」と優しい口調で話しかけてきた。


「こんにちは」

「貴女の力になるのは構わないのだけど、私の名前を当てられるかしら?」

「と、いうと?」

「ふふ。魂結をしたけれどもあれはまだ仮なの。私が貴女ときちんと契約するには名前を当ててもらおうと思って。他の上位精霊も何かしら要求してくるはずよ。良かったわね、最初が私で」

「名前・・・」


 前世の記憶をひっくり返す。ファンタジーものが大好きだった前世の私。彼女の容姿を見てさっきから名前が思い出せそうで思い出せない。美しい女性で踊り子の様な恰好。知っている。私は彼女の名前を知っている。


「あの、間違ってもいいですか」

「構わないわよ。でも下位精霊---人間の言葉でいうと微精霊の名前とは間違えないでね」


 どきどきと心臓がうるさい。いつの間にか周りは静かになっていて私たち二人を見つめていた。


「貴女は歌と踊りを好むナパイアーでしょうか」


 彼女の顔が嬉しそうに笑い、そして鼻腔をくすぐる花の身を包み彼女が私を抱きしめたのだと理解した。


「正解よ。私達の愛しい子。これから私、ナパイアーは貴女の病を退け貴女の力になるわ。ロレーヌ、私から私の眷族の子達にはきちんと力になるように伝えておくわね。さっきみたいなことにならないように。あぁ、それと月の変わりに私にお花を捧げてちょうだい。今月はさっき咲かせたコスモスを貰うわね」


 いつのまにか彼女の手にはコスモスの花束が抱えられていた。


「今年は無理そうだから買ったもでいいけれど、来年からは貴女の手で咲かせたものをちょうだいね?」


 頬にキスをされ思わず赤面する私に彼女は「ふふ。可愛いわ」と言って姿を消した。

 微精霊は下位精霊だと言っていた。つまりピクシーなどということになる。とりあえずはナパイアーが自身の眷族には話をつけてくれると言ってくれたので良しとする。にしても結魂は仮契約だったのか。仮契約だったから魔力の消費もそこまで激しくなかったのだろうか。あんな大量の上位精霊を召喚したら普通は魔力が枯渇しそうなものだ。恐らく、仮契約だったのと上位精霊が自身で魔力を補って出てきてくれたから大丈夫だったのだろう。


「ロレーヌ嬢」


 先生の声に「はい?」と振り返れば全員がポカンと口を開けていた。


「上位精霊の、いや、精霊の言葉が分かるのですか?」

「え?はい。きちんと理解できました。先生達には分らなかったのですか?」

「さっぱりでした。精霊言語の様な、それとも違う何かに聞こえましたね」


 ただでさえ殿下の婚約者で精霊使いという珍しい適正で目立っているというのにさらに目立つことになるとは思わなかった。これ以上目立ちたくないな、と思うも悪役令嬢である。多分、というか絶対に無理な話であって、つまり諦めるしかない。

 よし、いっそこの現状さえも楽しんでしまおう。精霊使いで精霊が召喚できるのだ。きちんと彼ら?彼女ら?に敬意と感謝を忘れずに接して死亡フラグ回収の際にはパパっと亡命できるように頼もう。私の命綱なのだから。


「皆さん、次の授業は体力づくりと精神統一です。動きやすい服装に着替えて速やかに二階にある体育館に集合するように」


 体力づくりかぁ。ロレーヌ、体力が異様にないんだよね。


「ネモフィラ、次の授業で私死んじゃうかも」

「どうして?」

「だって私、体力ないんだもの」

「ならロレーヌのペースで一緒に走ろう?」


 手を握り笑うネモフィラに私は胸が高鳴った。本当にこの子は可愛い。抱きしめたいけど今日も我慢。まだ出会って二日目だからね。


「ところでロレーヌ」

「なに?」

「私といるとつまらない? 」

「え?!」


 どうしてそんなことを?と困惑しているとネモフィラが「だって」と言葉を続けた。


「私といても表情があまり動かないから」

「動かしているつもりだったんだけど・・・。ネモフィラといるとすっごく楽しいわ。だって今までお友達っていなかったから。表情があまり動かないのも基本的に一人でいるのが多かったからだと思うわ。でもだからといってネモフィラといるとつまらないとか、そういうのは全くないから安心して」

「そっか。よかった」


 自由気ままに楽しく生きるためにはまずこの表情の乏しさをなんとかしようと、私は決意するのだった。



 貴族スマイルならできるのにね。

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