精霊使いになりました
入学式当日、やってきた学園はゲームの時に見たスチルそのままだった。孤島にある高く聳え立つ塔。それがこの王立魔導学園。塔と言っても中は魔法のおかげで拡張されており普通の学園となんら変わりない。各階層に様々な教室や寮、食堂などがある。
隣にいるファルダル殿下は今日も私の名前を呼ばない。無関心ではないが公式の場であるのだかもう少し仲が良いアピールをすべきなのでは?とため息を吐きそうになる。
さて、この王立魔導学園だが入学に必要な資格は魔力があるかどうか、だ。魔力が少しでもあれば平民も貴族も関係なく入学することができる。これにはきちんと理由があり、魔力の制御と扱い方を覚える為。ほんの少ししか魔力がなくても気が付いたら魔力量が膨れ上がり、制御できずに魔力を暴走させ自身の属性に飲まれて死ぬことがあるのだ。そうならないように王命で平民も入学できるようになっている。平民の入学費や学費など必要なものは免除されるので安心して通うことができるのだ。この学園からは実際に平民から素晴らしい成績を収め、その後、有名な冒険者や騎士、王族直々の家臣などを生み出している。
私も死亡フラグを回避し無事に卒業でき婚約破棄が出来れば好きな場所に就職ができるはず。頭の良さは両陛下が認めてくれているし不安材料は死亡フラグだけだ。
クラス発表はまだされない。その前に生徒達全員の魔力保持量、属性、職業適性などを見る必要があるからだ。このすべてが分かり次第、クラスが分けられる。寮は二人一部屋で三年間過ごすことになる。ロレーヌと一緒になるのは魔法アイテムなどの販売を行う人物だったはずだ。
「きゃっ!」
ドンっと、誰かが殿下にぶつかる。プラチナブロンドの長い髪を青いリボンで後ろで緩く束ねている女子生徒は尻もちをついたまま「ご、ごめんなさい」と謝罪した。珍しいクリスタルの様な瞳を持つ彼女はこの世界で愛される存在。平民でありながら類稀なる魔力量と美貌を持つヒロインのイベリス。
これは彼女と彼が初めて出会うシーン。本編では無礼者と罵るロレーヌなのだが、私はそんなことはしない。
「大丈夫か」
どうせこうやってファルダル殿下が手を差し伸べ、そして彼女の微笑みと小鳥の様に可愛らしい鈴の音の「ありがとうございます」という声に彼は頬を赤く染めるのだから。一応、婚約者が隣にいるんですがという言葉は飲み込んだ。
「殿下、彼女を医務室に連れて行ってはどうでしょうか。教師の方には私から事情をお話ししておきますので」
「あぁ、頼む」
少し驚いた表情を見せたがすぐに彼女をお姫様抱っこをして医務室に向った。
そんな二人を見て周りの生徒、特に女子生徒からは「ロレーヌ様かわいそう。皇太子殿下は何を考えていらっしゃるのかしら」や「婚約者がいるのに信じられないわ」などという非難の声があがった。
私はそんな彼女たちに微笑みを向ける。
「私は気にしていませんわ。誰にでも優しいのが彼の美徳ですし、それに怪我をした令嬢を放置なんてできませんもの。彼の事をあまり悪く言わないでください。私は気にしていませんわ」
少し悲しそうな表情をしてそう言えば静かになった。
しばらくして教師がきたので二人の事を説明し、二人が戻ってきたのでいよいよ入学式が始まった。
広い庭に集まった生徒たちは教師の言葉に耳を傾ける。
「これからある者は偉大なる魔法使いになり、ある者は神の御使いとなる聖なる使い手になり、ある者は誇り高き騎士となり、ある者は魔物と心を交わすことができる素晴らしい獣使いになるだろ。今からその素養を見定めさせてもらう」
ドキドキと緊張で心臓が煩くなった。ほかの生徒たちもそわそわとし緊張しているのがうかがえる。本編では魔法使いと獣使いの素養があったロレーヌだが、さてどうだろうか。微精霊達が今も傍にいるのだ。もしかしたら---の可能性があるかもしれない。
順番に生徒たちが呼ばれて行き次々に魔力保持量と属性と職業適性が分かりクラスが振り分けられていく。ファルダル殿下は本編通り水属性の適正があり魔力保持量も多く、そして騎士のクラスに振り分けられた。ヒロインであるイベリスは光属性の適正がありヒーラのクラスに振り分けられた。
そして私の名前が呼ばれる。
前に行き小さく息を吐きだし、魔力の流れを感知する。ふわりと私の真紅の髪が浮き上がり靡く。教師は言った。魔力を感じ、浮かんだ言葉を口にすれば良いと。
「我は汝。汝は我。これより結ぶは魂との契約。即ち魂結なり」
教師が何か叫んでいる気がする。
胸の奥が暖かく、そして安堵し紡ぐ言の葉は止まらない。
「あぁ、古代より約束されし契約は今、ようやく果たされる。汝を祝福したまえ。我を祝福したまえ。遥か道の果てにあるその先を、我らと共に歩まん」
足元に魔法陣が広がりそこから現れるのは精霊たち。火の精霊、水の精霊、氷の精霊、雷の精霊、大地の精霊、草の精霊、風の精霊。そして。
「そんな、ありえない!」
絶句する教師をよそに現れたのは、月と星を司る精霊、夜の精霊だった。精霊たちは皆、人型だ。誰一人として動物の姿などしていない。つまり上位精霊だ。いつもみる微精霊なんかじゃない。本体である精霊だ。どうしてこんなにも一斉に精霊が姿を現したのか困惑していると風の精霊が私に抱き着き「待っていたわ。私たちの愛しい人」と、とんでも発言をした。ごっそりと魔力を持っていかれている感覚はあるがそれでも立っていられるのは精霊たちが自身の魔力も使ってくれているからだろう。
教師は興奮気味に「素晴らしい!!」と叫ぶ。
「ロレーヌ嬢は精霊使いの才能があるみたいですね。魔力保持量も問題ない。しかし精霊使いを担当する教師はいないので魔法使いのクラスに入ってもらいます。それだけの精霊を召喚できるのです。全属性を扱えるでしょう」
「わかりました。ありがとうございます」
精霊達は満足そうにしていた。
精霊使い。ここ数百年と現れなかった存在で本来ならヒロインがなるはずだったもの。それがまさか私になるなんて。まぁ、微精霊が集まってきている時にすでに「もしかして」とは思っていたけど。
ヒロインであるイベリスを見ればものすごい形相で私を睨みつけていた。今にも人が殺せそうな表情と殺意を向けられ、彼女も転生者なのかと予想するも放置。精霊たちも気にせずに私の周りにいた。
「あの、とりあえず今は戻ってもらってもいいですか?必要な時に召喚しますので」
私の言葉に闇の精霊が小さく頷き影に消え、それと同時に他の精霊も消えていった。
「君は、昔から精霊たちと面識があったのか?」
「微精霊とならいつも会っていました」
殿下の質問に素直に答えると彼は「そうか」とだけ答え、そのまま何も言わずに自身のクラスの生徒が集まっている場所に行ってしまった。
私も魔法使いのクラスが集まっている場所に行き、そしてこれから過ごす寮に案内された。
扉の前に行くと「あ」と後ろから声がした。振り向けばそこには魔法具を販売することになるネモフィラがそこにいた。ふわふわとした鮮やかな青い髪は肩までの長さで揃えられており白い瞳は丸く大きいが左目には包帯が巻かれていた。
「もしかして、同室の方かしら?」
コクンと頷くネモフィラに私は笑顔を浮かべた。
「初めまして、私はロレーヌ・フォン・ルードベルクよ。ロレーヌと呼んでちょうだい」
「初めましてロレーヌ様。私は王国で魔導具を販売しているエルク商店の娘、ネモフィラと申します」
「敬語は使わなくていいわ。せっかくの学園生活だもの、堅苦しいのは無しにしましょう?」
扉を開け中に入ればベッドが二つと勉強机が二つ、そしてクローゼットが二つ置かれているだけのシンプルな部屋だった。
「ネモフィラ、どっちを使いたい?」
「できれば右側を」
「わかったわ。私は左を使うわね」
机の上にカバンを置き窓を開ければいい風が入ってきた。私たちの部屋は五階にあり、見晴らしは良く空と海の青さに溶け込む様な景色に鼻歌混じりに荷物を整理していく。使いやすいように教材を並べ羽ペンとインクも置く。着替えはすでに運ばれてクローゼットの中にあるので問題ない。ベッドを触れば家の様な柔らかな感触ではないが仕方ない。
ネモフィラを見れば彼女もすでに整理を終えていた。
「ねぇネモフィラ、貴女はどの属性が使えるの?」
「私は空間属性の魔法が使えるの。だから人形を操ることができるわ」
「パペット使いってことね。すごいわね」
「精霊使いのロレーヌの方が凄い気がするけど」
転生特典ということは黙っておこう。
お喋りもそこそこにして部屋を出て10階にある食堂へ向かう。
歩くときはネモフィラの左側に立つ。何かあればすぐに対応できるように。そのことにすぐに気づいた彼女は、はにかみながら「ありがとう」と口にした。その笑みが愛らしく今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られるが我慢だ。
食堂に着けば皆それぞれ好きな場所に座っており、フォルダル殿下はどこにいるかしら?とか見渡せばヒロインの傍に座り楽しそうにお喋りをしていた。
「イベリス」と名前を呼んで---。
「ロレーヌ?」
ネモフィラの心配そうな声で、私は息が止まっていたことに気づいた。
ロレーヌの意識がはっきりと感じ、そしてロレーヌが嫉妬しヒロインであるイベリスに激しい怒りを抱いたのがわかった。
ネモフィラが名前を呼んでくれなければきっとあのままイベリスの傍に行き手をだしていたかもしれない。
「ロレーヌ、大丈夫?」
「大丈夫よ。いつものことだもの」
「なら、いいけど」
心配そうなネモフィラに私は「でも」と言葉を続ける。
「いつものことだけど、婚約者がいるのに他の令嬢と仲良くしているのは殿下という立場としてはまずいわよね。注意したら余計に嫌われちゃうかもしれないし、彼らの傍に座ろうかしらね」
「そ、それって」
頬を引き攣らせるネモフィラに、早く早くと声をかけ殿下とイベリスが座っている席の目の前に座った。殿下を見れば流石に気まずそうにしているが隣、にいるイベリスは気にせずに殿下にべったりとしていた。
「フォルダル殿下、紹介したい方がいるのですがよろしいでしょうか」
無理やり会話に入る。
ファルダル殿下は「あ、あぁ」と小さく頷く。
「こちら私と同室となったネモフィラです。あの有名なエルク商店のご令嬢ですの」
「あの商店の。素晴らしい品が数多く揃っていると聞く」
「ありがとうございます。その言葉を殿下から聞けたと知れば父も喜ぶと思います」
私はイベリスを見て「ところで殿下、そちらの方は?」と尋ねた。
「あぁ、入学式の時にぶつかった令嬢のイベリス令嬢だ。光属性の使い手で素晴らしいヒーラーになるだろうとすでに噂されている」
「そうですか。初めまして、イベリス。私はファルダル殿下の婚約者のロレーヌ・フォン・ルードベルクよ。気軽にロレーヌと呼んでね。殿下は誠実で誰にでも優しいの。そんな彼がいれこむなんてよっぽど素敵なご令嬢なのね。ぜひ、私とも仲良くしてちょうだい」
私は嫉妬などしていないしこのまま婚約破棄できたらいい。けど、ロレーヌの意識が奥底にあり彼女が怒り悲しむなら話は別だ。
自由気ままに生きる。それは変わらない目標。でもだからといって黙っているだけなんてやっぱりできない。嫌がらせはもちろんしないけどこれぐらいなら普通の会話として通じるはず。
嫌味満載と気づいたネモフィラが苦笑していたし、ファルダル殿下は何かを言おうとして言葉を飲み込んだのがわかった。言えないよね。婚約者を差し置いて他の令嬢と仲良くしていたのだから。
だがイベリスは私の嫌味に気づかなかったらしい。いや、気づいていて気づかないふりをしていたのか。彼女は相変わらず愛らしい笑顔のままファルダル殿下にべったりとしていた。
「わぁ!未来の王妃と仲良くしてほしいって言われた私光栄です!私はイベリスって言います、宜しくね!」
名前は彼女も呼ばない。
食堂はいつのまにか新入生や上級生でいっぱいになっていた。
学園長が傍に置いてあったベルを鳴らせば食堂は静かになった。
よくある乙女ゲーなら学園長も攻略対象だったりするがこのゲームでは違う。
学園長から入学祝いの言葉が並べられた後、ようやく夕食が始まった。
食事は意外にも美味しい。ビュッフェ形式なのもありがたかった。
ただこの身体に転生してからというもの、パンか麺しかたべていないのでお米が食べたくてしかたがない。ないものをねだってもしょうがないが米が食べたかった。学園に入ればあるかもと期待したがなかった。
「ネモフィラ、ほしいものある?とるわ」
「あ、じゃぁ、そこにあるマッシュポテト食べたい。あとローストビーフも」
「ふふ。いっぱい食べてね」
可愛い。美味しそうにご飯を食べるネモフィラがとてつもなく可愛い。
自由気ままに生きると決めていたけど友人もおらず、ただ趣味のお茶と読書をしていただけの私に、こんな可愛い友人ができるとは思わなかった。両親とメイドいわく、私は表情に乏しいが美味しいものを食べたり飲んだりするときはそれはもう穏やかな顔つきになるのだとか。ファルダル殿下が私に興味を持たないのはあまり表情が動かないからのかもしれないな、と今更ながらに思う。
そういえばゲーム内のロレーヌも基本は無感動った。ヒロインに対しては激しい怒りを見せていたがそれ以外はあまり表情を見せなかった。対照的にイベリスは表情がころころと変わり天真爛漫な性格をしていた。 そんな彼女に惹かれたのかもしれないが、でもだからといって婚約者を蔑ろにするのはいかがなものかと思いながら、食事をしながらネモフィラと楽しい会話を広げた。
食事が終わり部屋に戻って明日から始まる授業の準備をやってしまう。忘れ物がないかネモフィラに確認してもらい、私もネモフィラの忘れ物チェックを行った。
「ネモフィラ、アロマを焚いてもいいかしら。ベルガモットの香りなのだけれど」
「大丈夫。私もその香が好きだから。むしろ有難いかも」
「よかった。なら焚くわね」
アイテムボックスと化している自身のバックからベルガモットの香りがするアロマキャンドルを取り出した。炎の微精霊に火をつけてくれるよう頼むと火が付き、ふわりとベルガモットの香りがした。
枕にはラベンダーの香りがするスプレーをしてベッドに入った。
緊張がほぐれていき徐々に睡魔が襲ってきて良質な睡眠がとることができた。
次の日、やる気満々の微精霊達のせいで下級魔法が上級魔法並みの威力になったり、春先なのに夏の花が咲いたり、ちょっとした防御魔法のはずが反射魔法になったりと、凄まじい結果になりネモフィラが「ロレーヌ、すごい」とキラキラとした瞳で見つめてきたけど、私は頭を抱えることになった。




