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隣国の第二王子は私が好きで堪らないようです

 今週も、色々あったと遠い目になる。

 私が悪役令嬢にならないと宣言したからか、本来なら私が起こすであろうイベントをイベリスや、または私の取り巻きさん達が起こすので結果として何もしていないはずの私の悪名が学園に広まっていた。教師陣は私とイベリスどちらかを味方するという事はないが傍観するのもどうだろうかと思ってしまう。

 取り巻き達には勝手なことをするなと言ったが不服そうで、案の定「私はロレーヌ様の事を思ってやっているのに」と泣かれてしまいさらに冷ややかな目線を貰うことになった。私も人である。ちょっと、いや、だいぶイライラしていたと思う。つい口が勝手に


「私の為ではなく自分のストレス発散の為に私という大義名分を使ってやっているだけでしょう?いい迷惑なのでやめて頂いても?」


 と動いていた。人間って怖い。

 ネモフィラも怒っているらしく「ロレーヌの為って思うなら何もしないでくれる?貴女達のせいでロレーヌが余計に悪く言われているんだけど」と言っており、それに激怒したプライドだけは高い貴族のお嬢様がネモフィラに平手打ちをした。


「平民が貴族になんて口を!」


 おかげで私の怒りも振り切り頭の裏は不思議と冷静になった。


「ネモフィラ大丈夫?保健室きますわよ」

「うん。ありがとう」

「こっちこそありがとう」


 騒ぎを聞きつけた教員に事情を説明し保健室へ。

 幸いさほど腫れてはいなかったのでまた飴を貰って自室に戻り、そして次の日。


「ロレーヌ、お菓子作ろう?」


 ネモフィラが良い笑顔でそう提案してきたのでネモフィラと調理室へ。

 作るのはゴーフル。今でいうワッフルだった。

 ネモフィラのアイテムボックスから出てくる小麦粉が入った瓶と砂糖が入った瓶、そして卵。あとはドライイーストに蜂蜜にと、ワッフルに必要な食材が出された。


「材料買うの大変だったのでは」

「砂糖と卵はちょっとね。でもうちは一般家庭に比べたら裕福だからたまの贅沢で買うなら問題ないよ」

「そうなのね」


 まずは二人で材料を量り、それをボウルに入れて混ぜていく。人肌に温めた牛乳にドライイーストをいれ、混ぜておいた小麦粉と砂糖、そして卵を入れてよく混ぜる。


「結構重いわね」


 混ぜている途中からズシッという重さが伝わってくるが頑張って混ぜる。溶かしバターもいれてさらに混ぜ、しばらく生地を休ませる。次に生地を好きな大きさに取りワッフル型の鉄板に流し込み、挟んで焼いていく。甘いいい匂いが調理室に漂い小さくお腹が鳴りネモフィラとクスクス笑いあう。穏やかな時間に安堵しているとシルフとノームがいきなり現れた。


「お菓子ちょうだい!」

「食べたい!」


 ダメー?と二人から潤んだ瞳で見つめられため息をついた。


「仕方ないわね。みんなで食べましょう?」


 幸いにも生地は沢山あるので問題はない。

 精霊の分まで焼くき、そこに蜂蜜を垂らせばシルフとノームの瞳はキラキラと輝いた。精霊って意外と人が食べるもの好きなのね・・・と笑みがこぼれた。

 美味しい!とワッフルを頬張る精霊二人は可愛い。ネモフィラもワッフルを食べて嬉しそうだ。

 私も、とワッフルを一口に切り口に入れれば、サクサクもちもちの生地と口いっぱいに広がる甘さとバターの香りに口元がにやけていく。


「これ、美味しいわ」

「喜んでくれてよかった。最近色々あって疲れていると思ったから。ロレーヌに甘いものでもどうかなって」

「ふふ。ありがとう、ネモフィラ。やっぱりネモフィラが一番私の事を思ってくれているわね」

「当り前だよ。ロレーヌは私の一番だから」


 お菓子を食べ終わるとネモフィラと一緒にお散歩の時間だ。

 最近のお気に入りは噴水広場にある庭園を眺めながらゆっくり歩くことだ。

 その際、ナパイアーも召喚する。ナパイアーにこの庭園に咲いてある花や薬草の効能を教えてもらうためだ。流石、魔導学園というべきか、この庭園には数えられないほどの草花が咲いており空いた時間散歩をして教えてもらっているが終わりが見えない。


「あ、ここにもハーブ系は植えてあるのね」

「ハーブとかはポーションの材料になるから」

「ネモフィラも店でも置いているの?」

「一応ね。基本は魔道具だけど、ポーションやその材料ぐらいは売っていても損はないから。あ、先生いたよ」

「良かった」


 散歩ついでに探していたのはこの庭園を管理している先生だった。

 エレフの女性で、丁寧に季節の花や薬草などを育てており、あのナパイアーもこの先生を称賛していたのを覚えている。


「先生、一年生のロレーヌです」

「ネモフィラです」


 先生は私達二人に気づくと作業していた手を止めてこちらに振り返った。

 そして、ぱぁ!と顔を輝かせ「貴女がロレーヌ嬢ね!私、貴女とお話がしたかったの」と、頬についた土を拭いながらそう言ってきた。


「貴女の悪い噂が流れているけれど、私は信じていないわ。精霊と契約できる人間が悪い人のはずがないもの。精霊は良くも悪くもその人の本質を見抜くと言われているわ。それだけ精霊に愛されているんだもの。貴女の本質はきっと優しいのね」


 差し出されたのはポプリだった。

 匂いを嗅げばラベンダーやローズの香りがし、ネモフィラも同じ匂いだったらしく「良い匂い」と嬉しそうにしている。


「頑張っている貴女達に私からプレゼント。香りがなくなったらまた上げるわ」

「ありがとうございます。あの、先生、私達ハーブの効能などについてもっと知りたくて」

「あら。お休みの日でも勉強熱心なのね。ふふ。いいわよ、教えてあげる」


 先生の金髪のストーレートの髪が風に揺れた。

 優しいアクアマリンの色がした瞳が私達を優しく見つめ口元に笑みを携える。美しいその表情に私たち二人は思わず見惚れてしまう。


「そうね、貴女たちはどこまでこの庭園の事を調べたのかしら」

「この辺りまでなら調べましたが、付け焼刃程度です。もっと詳しく知りたいのです」


 その言葉に先生は「わかりました」と頷き、講義を始めてくれた。

 どのハーブが春に咲き効能も詳しく教えてくれ、そしてどの薬に使われるのか細かに教えてくれた。それを羊皮紙にメモをしていく。


「先生、あの、庭園の一部を貸してもらうことはできますか?」

「どうして?」

「ナパイアーに捧げるお花を育てたくて」

「あぁ、なるほど。そうですね、貴女になら貸してもいいでしょう。何を育てますか?」

「そうですね、四月の下旬ですしマリーゴールドでも育てようかと」


 案内された、開いている庭園は広々としておりマリーゴールド以外にも夏頃に咲く他の花も植える事が出来そうだった。


「キキョウとかコスモスとかも植えて咲かせようかしら」

「種ならあるわよ。はい」


 先生から種を貰いネモフィラと一緒にスコップで土を掘り種を植えて水を撒く。

 どこに何を植えたか分かるように看板も置いておく。


「ふふ。綺麗に咲いてくれたら嬉しいなぁ。ナパイアーが喜んでくれたらいいんだけど。綺麗に咲いたらネモフィラにもお花をあげるね」

「いいの?」

「もちろんよ」


 それからネモフィラとのんびり散歩の続きをしながら先生に色々とお話を聞いた。非常に身になる話ばかりでネモフィラと一緒に質問ばかりしてしまった。だけど先生は嫌な顔せず、むしろ嬉しそうに質問に答えてくれた。

 夕暮れ時、もう一度だけ水撒きをすると食堂に向う。

 相変わらず私達を見るとヒソヒソと煩いが気にはならない。しかしネモフィラは違うらしく「死ねばいいのに」と小さな声で呟いていた。


「ネモフィラ、気にしなくていいのよ。集団の中でしか、しかも小さな声で悪口を言えないような人を気にする方が時間の無駄でしょう?その程度の人間なんて相手しなくていいのよ」

「うん、わかった」


 頷いた彼女の頭を撫でればネモフィラは嬉しそうに笑った。


「あぁいいややわぁ、どっかの誰かさんたちのしょーもない陰口のせいでせっかくの夕飯がまずくなってしゃぁないわ。ルードベルク嬢、ネモフィラ嬢、良かったらこっちで僕とい一緒に夕飯でもどうやろ?」

「あら、宜しいの?」

「こんな可愛らしくて美人な二人と夕飯が食べれるなら大歓迎やわ~」


 にこにこと笑うゼフィランサス殿下の言葉に甘えて席に座る。


「明日も休暇やし約束通り一緒に出掛けよな~」

「どこに行きますの?」

「美味しいカフェとかどうやろ?人気の店があるんやで」


 茹でたソーセージをフォークに刺し、齧る殿下にネモフィラが「城下町に最近できたっていうあのカフェ?」と聞くと殿下が頷いた。口の中にあるものを飲み込み水分を摂ってから「そうそう。パンケーキがめっちゃ美味しいらしいねん」と言った。


「季節の果物を使ったジャムもあるらしいで。もちろん蜂蜜もな!」

「ジャムに蜂蜜・・・!」


 ネモフィラの瞳がキラキラと輝く。


「ロレーヌ、私行きたい!」

「なら行こうかしら」

「やったぁ!」

「僕も嬉しいわぁ」


 彼はスープの残り一口を食べると「おそまつさまでした」と手を合わせた。

 それでもまだ席に座っているので首を傾げているとゼフィランサス殿下は笑いながら「僕が居たらちょっとは悪意ぶつけられるんマシになるかなーって」と言った。だけどそれはつまり私たちの分まで彼が悪く言われるという事。それはなんだか悲しい。ネモフィラの事も悪く言われる事も悲しいけど。


「ルードベルク嬢、そんな悲しい顔せんとってや。な?僕は慣れてるから大丈夫やで」

「でも、私は嫌ですわ・・・。私の事を大事に思ってくれている二人が悪く言われるのわ」


「へ?」とゼフィランサス殿下が呆けた声を出し、ネモフィラが「ロレーヌ」と嬉しそうな声を出した。


「ちょ、ちょっと待って?僕も確かにルードベルク嬢の事大事にしてるけどそんなあっさり信用してええぇん?ていうか急にデレられると心臓に悪いんやけど。今めちゃかわえぇこと言った自覚ある?」


 ゼフィランサス殿下の言葉がよく分からなかった。

 ネモフィラが私に抱き着き「ロレーヌ大好き!ありがとう」と言ってくれた。

 夕飯も終わりネモフィラが自室に戻るのを見届けてから、私は庭園に向う。

 春風が吹く夜は少し肌寒いが動いている分には問題ない。


「あれ、ルードベルク嬢まだ寝てへんかったん?こんなとこで一人でおるとこ誰かに見られたら、いらん噂言われるで」

「ゼフィランサス殿下。その言葉、そっくりそのままお返ししますわ」

「ははっ。手厳しいなぁ」


 そこ、座らへん?と言われベンチに座る。

 彼から差し出されたのは暖かい柚子茶だった。

 それを受け取りベンチに座り口に含めが少し冷えた身体が温まる。


「貴方はどうしてここに?」

「いやぁ、部屋戻ろうとしたらルードベルク嬢の姿が見えたからついてきてん。襲われたら大変やろ?」

「心配してくれますの?」

「そりゃぁ惚れた女性の事やで?あたりまえやん」


 さらりと恥ずかしいことをいう彼の言葉に私の気持ちは簡単にかき乱される。自分でもちょろいと思う。 殿下という婚約者がいるというのに、まるで恋をしているみたいだ。


「僕も嫌われ者やし、嫌われ者同士仲良うしたいやん?あかんかな?」

「だめ、ではないですわ。貴方が私を大事に思ってくれているのは信じていますし。精霊達も、貴方の事を好いているみたいなので」

「え?そうなん?」


 そう、シルフやノームにナパイアーにゼフィランサス殿下の事を聞いたら以外にも好印象だった。理由は私の事を大事にしているからという事と、彼も精霊に好かれやすい体質らしい。つまり彼は良い人間ということだ。


「シルフとノームが貴方と遊びたいと言っていましたわ」

「シルフとノームが?なら今度遊ぼっか。なぁルードベルク嬢」

「何かしら」

「良かったら僕と一曲踊らへん?月光の下で優雅に可憐に美しく」


 差し出される手に、私の手は自然と彼の手をとる。

 曲はない。あるのは風の音と揺れる木の葉の音。そして噴水のせせらぎの音。それだけで充分だった。自然と身体が動き足がステップを踏み舞う。


「綺麗やで、ロレーヌ嬢」


 微笑むゼフィランサス殿下に私の心臓は高鳴る。

 頬が高揚し私の口元が緩むのを感じた。

 私は今、笑っている。

 なんて素敵な夜なのだろうか。

 こんな世界がずっと続けばいいのに、なんてがらにもないことを思ってしまった。

 彼の瞳の中に映る私はとても幸せそうに笑っており、自分でも驚いてしまう。

 こんな私を今まで見たことがない。

 風に吹かれて花が舞い、この舞台を飾り、まるで夢の中にいるようで頭がぼんやりとする。


「愛しとるで」

「っ・・・また、そんな事を・・・」

「照れた顔もかわえぇなぁ」


 本当に、この幸せな時間が続けばいいのに。

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