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09.地熱

帝国に属していた頃、

竜属クラスの魔物の討伐には

モンショもよく招集されていた。


帝国随一の魔法使いと称される

モンショが駆り出されると言うことは

討伐隊は帝国の武を結集した

精鋭部隊と言うことだ。


それほどに竜属の魔物は手ごわかった。


今、モンショの周りにはその精鋭部隊はいない。

しかし竜属と対峙しても怯むことなく

獰猛なうなり声をあげるエスが傍にいた。


―――そして


『ワシとて400年の間、

 何もして来なかった訳では無いのでな』


蛇を思わせる瞬発的な加速に乗せて

エスに振るわれた凶牙をモンショは

障壁で受け止めた。

エスの方もエスの方で後方に飛んで

躱していたが土竜の攻撃を受け止める

その障壁が急に現れたことに驚いたようだ。


最上級の魔物と対峙しているこの状況を

理解していない様にまるで首をかしげる様に

不審そうに鼻を鳴らして顔をこちらに向けた。


『そんな場合では無かろうが・・・』


無敵の軍隊を創ろうとしていた時期が

モンショにはあった。

だが雑兵にいくらバフをかけたところで

相手が圧倒的な暴を持っていれば

それは結局はただの塵芥に過ぎない。


だがその相手が番の二匹で、

いや、たった一匹ですら竜属に対峙できる程の

存在だったら?


身体能力、魔力、治癒能力・・・

ありとあらゆる高強度のバフを付与され

その身体から湧きあがる力にエスは

少し困惑すらその表情に現れていたが

狂暴なうなり声をあげた。


同時に土竜の影を操作して拘束すると

生来の狩猟者たるエスはその隙を

見逃さなかった。


爆発的な加速に乗せてエスは土竜に

肉薄するとその首を咥えて引きずり倒した。


バフ込みでもその代名詞たる硬い鱗を

食いちぎるには至っていないようだが

もう勝負はついたようなものだ。


引きずり倒されて長く伸びたその首を

刎ねようとモンショは空気を圧縮した刃を

練り始めた。


『お願い!!殺さないで!!』


土竜から言葉が発せられた。

竜属の魔物が言葉を解することは

そこまで珍しいことでは無い。

だが言葉を発するほど知能の高い種は

限られていた。


『ほう?話せるのか・・・』

『だが、悪いがワシの館を襲われるわけには

 いかないのでな・・・』


『館・・・?』


かつてのモンショならば面倒な問答など

無視して無情にもとっくにその首を

刎ねていただろう。

だが、何だかんだ孫と過ごすうちに

その性格は老人の様に随分と丸くなっていた。




・・・なるほど?


この土竜の向かっていた先は館の先にある

山岳地帯の溶岩地帯であったと。


そしてその目的は―――まさかの産卵期であった。

竜属相手にしてはやけにあっさりと勝負が決まったな

と思ってみれば実は抱卵個体であったのか・・・

それにしても土竜の卵は地熱を利用して孵化するのか。

これはなかなかに興味深い新たな知見だ。


溶岩地帯にはかなりの高確率で火竜も生息していて

産卵で弱った身体に鞭打ってその襲撃から

卵を守り抜く必要があるそうだ。


力めばついここで産卵してしまうかもしれないのも

あったのであろうが、無意識にその為の力を

温存しているが故の隙が勝敗を分けたのであろう。


『だから私はこんなところでモタモタしてられないの』


そりゃそうだ。それは急ぐ旅路であろう。

エスとビーの妨害にあっても歩みを止めない訳だ。


『従魔契約を結んでも良いから・・・』

『どうか、今は見逃してくれないかしら・・・』


『・・・なんだそれは?』


『ああ、確かにあんまり知られていない

 のかも知れないけれど・・・』




―――それだっ!!


土竜のその説明はモンショの最近の困りごとの

答えだった。


『良いことを教えてくれたな』


未だその首に食らいつきながら喉を震わせて

唸り続けるエスに土竜を離すように

促すと意外とあっさりとその牙を離してみせた。

狩猟本能で頭はいっぱいであっただろうに

ちゃんとその指示に従うあたり

この種は思ってたよりずっと賢いのかも知れない。


『良いことを教えてくれた礼だ』


その身体の傷を癒すとその予想外の行動に

土竜は目を丸くした。


『良いの?』


『ああ・・』

『ところで地熱があれば産卵場所はどこでも

 構わぬのか?』


まるで噛み合わない程の問いに土竜は

どう答えてよいか解らなかった。


『溶岩であれば・・・』

『何ならワシがこの場に造ってみせよう』


モンショが大地に触れると魔力で産み出された

その高熱により大地が溶け出した。



『これ・・・』


土竜は続く言葉が出てこなかった。

無詠唱で魔力をその創造者が望むとおりに

変化させるこの技術を得意としていた人間の国は

その技術と共にとっくに滅んだはずだ。


それは魔物たちの扱うそれと似ており

魔物たちに随分と脅威を感じさせた。

それ故に多くの強大な魔物たちが不利な従魔契約を

結ぶことになった王国が遂にはその戦いに

勝利することとなった。


『ここでならばその火竜とやらと争う必要もあるまい?』


親切心ではない。


もし土竜がここに産卵でもしてくれれば

その地熱を維持するにはモンショの力がいる。

つまりその卵を人質に取れたようなものだ。


従魔契約―――


その他にも言葉を交わすことが出来る魔物である

こいつの知識はワシと・・・

何よりアイルとマグのためにきっと役に立つだろう。




 
















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