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08.忠犬

『まるで孫が増えたようだな・・・』


モンショはため息交じりに独り言ちた。

こやつらもこやつらでなかなかに手間がかかる。


いつも陽気に走り回って遊び相手を探して

吠え散らかしているエスと

まるで寄り添うように誰かの傍にいたがる

大人しい性格のビー、まるで真逆の性格の

2匹だが自分や孫たちに撫でられると同じように

嬉しそうに目を細めてはその顔を舐めた。


流石に運動量の多い種族である2匹を

館内に完全室内飼いではストレスがたまる

だろうと2匹のために首輪の魔道具に反応して

門を自由に出入りできるように結界を調整した。


が、それは失敗だったのかも知れない。


2匹は散歩に行く度にケガだらけになって帰ってきた。


考えてみれば傷つくと解って・・・

いや、解っていなかったのかも知れないが

エスは何度も館の結界を破ろうと突撃して

勝手に大怪我してたやつだ。

そんなエスはともかく、大人しいビーですら

2匹揃って傷だらけになって帰ってきて孫たちに

悲鳴をあげさせるのだからたまったものではない。


『明日、ワシはこやつらの散歩に付き合ってみようかと思う』

『さすがにここまで毎日怪我をするのではな・・・』


留守番中の孫のために日持ちのする料理とお菓子を

用意しながらケガ治して貰って良かったね~っと

わしゃわしゃとエスとビーを撫でまわす孫たちに告げた。


アイルもこの一年ずっと館内で過ごしてきたため

本音を言えばそれに着いて行ってみたかった。

でも、それでマグを独りぼっちにするのはもっと嫌だった。

その葛藤はアイルの顔にしっかりと現れていて・・・


そろそろ館の外を歩けるくらいの魔法を教えても

良いかも知れんな・・・


とモンショは考えた。

安全のためとはいえ、館にずっと閉じ込めておいては

確かにその成長に良い影響は与えないだろう。


尤も一人で出歩かせて危険な目に合わせる気はない。

明日、一緒に外で何をやっているかこの目で

確かめるつもりだが、エスとビーも孫とは違った

意味できっとなかなか目を離せないだろう。

皆のその危機を感知できるような何か仕掛けが必要だ。


「じぃじ、じぃじ・・・」


「おじい様、くれぐれもお気をつけて・・・」


ぼんやりと考え込むモンショは孫からの言葉で我に返った。


『すまんが明日は大人しく留守番していてくれ』


聞き分けの良い孫の承諾の言葉にモンショは

思わずその邪悪な笑みを浮かべながらその頭を

優しく撫でた。




―――翌朝


『では、いってくる』


まだ眠い目をこすりながら見送りに来た

孫たちに声をかけると早くも走り出した

エスとビーの姿を追った。


モンショがついてきている事に気が付くと

エスとビーは「わぁ~一緒にきてくれるの?」と

言いたげに館を出てからその尻尾をゆったりと振りながら

何度も何度も揃ってモンショの姿を確認する様に

振り返っていた。


これはこれで愛くるしいものだな・・・


はたとビーが立ち止まると何を思ったのか館の方に

向き直ると見送っていた孫たちの元に駆けだした。

もう随分と遠目になっているが孫たちの元に辿り着くと

じゃれ合っているのが見える。

こちらに戻る気配は感じられず、どうやら孫たちと

留守番するつもりの様だ。


モンショがついてきたことでアイルとマグだけが

館に残るのを心配したのだろうか?


『まさかな・・・』


そんなにこの魔物が賢い訳がないのを

証明する様にビーを見送ったエスは

モンショのことなど忘れたように

急に走り出した。

慌てて追いかけるとその先で急停止してて

周囲のニオイを嗅いでいたり、

そして追いついてみれば大喜びで抱き着いてきて

顔を舐めてきたりと何とも落ち着きがない。


また走り出したかと思えば今度は大きな獲物を捕えて

モンショの元にしっぽを振り回して持ってきた。


『ああ、ありがとうな・・・』


その頭を撫でながら異空間に貰った獲物を

しまい込みながら不思議に思った。


怪我をする様子など無いんだがな・・・?


確かに落ち着きは無いが、

流石にフェンリル・ウルフだけあってこの辺の

魔物に傷つけられる様子は無い。

先ほど持ってきてくれた獲物とて本来、

散歩の片手間に捕らえられる様な魔物では無かった。



そうしていると、エスが不審げに鼻をひくつかせ、

ある一方を見つめながら背の毛を逆立たせ

獰猛な唸り声をあげた。


・・・?


モンショには何も脅威は感じられない。


だが感知能力に優れたこの種族がここまで

警戒を露わにするのだから間違いなく何かがいる。


エスは主人が自分と違い、何も感じ取れていない

ことが解ったのか脅威の存在をモンショに伝える様に

いくつもの雷撃を大地に放つと地中にいた巨大な

魔物がその姿を現した。


『土竜!!』


魔物の頂点の一角に位置する竜属のその姿は

既に酷く傷まみれだった。


その傷のつき方とそこにこびりつくその魔力と、

そして土竜が姿を現したことで地上と空間が

繋がったことでその巣穴を感知できたモンショは

全てを理解した。


とんだ馬鹿犬どもかと思ってしまったが・・・

とんでもない忠犬たちではないか!!


その巣穴は初めは一直線に館の方に伸びていた。

途中から歪に蛇行するその巣穴はここ数日の

エスとビーのケガの理由を教えてくれていた。



























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