表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

05.自責

苦悶と恐怖の叫びをあげ続ける

影に囚われた8人の賊たちの耳に

コツコツと近づく足音が聞こえた。


目を向ければここの暗さでその姿は

影しか見えなかったが、十中八九

館に急に現れた不死者であろう。


俺達は金をもらっただけで何も知らない


捕えられた賊たちがまだ何も言っていないのに

予想通りの答えをよこした。

まぁ、予想通りというか何というか・・・


『貴様らが何も知らないかどうかは』

『ワシが決めることとしよう』


元より不可解な動きを見せるまとわりつく影が

もぞもぞと動くと無数の刃を形作った。


『その影たちは貴様らを殺しはせん』


まぁ、その元が死ねば影も消えてしまうからな。


『死ぬことは無いと保証してやろう』

『むしろ死にそうになれば治療すらしてくれる』

『たとえ死にたくなってもな・・・』


かつて帝国の審問官が使っていた手だ。


眠ることも気を失う事も許されず

死ぬことすら無いまま永遠に続くその責め苦を

与えるその魔法を応用し、王国の全ての影が

動き出してその主を殺めれば一瞬で一国を

滅ぼせるのではないか?

と考えて研究していた時期がモンショにはあった。


本来、審問官は専用の魔道具を頼って

発現する魔法ではあったがその研究の経験から

より自由の利く影を自在に産み出すことに

モンショは成功していた。


尤もその考えは、影にも生存本能の様なものがあるのか

その主を一瞬で殺めるということがうまくいかずに

途中で没案となったものではあったが。


「ば、ばかな」

「古代魔法だと・・・?」


恐怖に怯える賊の一人が呟いた。


・・・最新の魔法のつもりなのだが?


『別に何も話さなくとも構わぬ』

『やったことの責任は自らで負うべきだ』

『そうであろう?』


モンショはその呟きには答えず、ただそう言い残すと

恐怖と苦痛の叫びが上がり始めたその場を後にした。





それからモンショは育児に追われた。

昼夜関係なく世話を必要とするマグと

甲斐甲斐しくそれを手伝おうとする

アイルだってまだまだ幼い。


必要なものを買い出しのために遠く離れた

街に行くことが出来るのはモンショだけだったし

その為のお金も稼がなければならない。

館には少なからずお金はあったが補充しなければ

いずれ無くなるのは自明の理だ。


街では魔物の素材が高値で取引されていることに

気付くと買い出しに行く前に当たり障りのない

魔物を捕らえることがモンショの日課となった。

今は目立って事を起こすべきではない。

高すぎる素材を採ることはやめておいた。


今まで妻や使用人に任せ、することの無かった

不慣れな家事もこなさなければならなかった。


料理などは初めての行為だったが厨房で見つけた

レシピ集のおかげで何とかなった。

何グラムの材料を用意して何リットルの水を―――

その行為は実験と何も変わらない。


「これ、美味しいです」

「・・・おじい様」


それにその実験に成功すればアイルからの

誉め言葉ととっておきの笑顔をプレゼントされた。

すぐにモンショはその実験に夢中になった。


もう少し大きくなればそのアイルに教育を

始めなけばならない。

そのための知識・技能を学ぶ必要もあるだろう。


姉弟が隠れていた書庫にはいくつもの家伝や

歴史書があり片手間にそれらを読み漁って

400年の空白を埋める努力もした。


何もかも全てが、ただ研究に没頭し続けた

自分の蒔いた種だとモンショは一心にそれらをこなした。


ワンオペ過ぎて本来なら音を上げる状況だが

モンショは睡眠を必要としなかったし

疲れるといったことも無かった。


それも調べる必要がある。


ワシは不死者になったのだろうか?

いや、400年も生きている段階で

間違いなくそうなのであろうがそれは何故だ?


この世界での不死者の魔物が産まれる理由は

主に二つ―――【呪い】と【未練】だ。


前者はその呪いをまき散らし、その仲間を

増やし続ける恐ろしい不死の魔物となるが

後者はそうでもない。

一概には言えないが、ただその未練に

取りつかれるだけの哀れな存在になることが多い。

未練は誰しも絶対にあるものだから、

そうならないために死者を埋葬する行為が

この世界では必要であった。


恐らくモンショは前者でも後者でもない。


呪いは悪意の塊の様な力だ。

相手を苦しめるために受呪者がそれを

理解できなくてはむしろ意味を成さない。

そんなものを感じ取った覚えはない。

未練に関しては自身の死を前に浮かぶものだ。

いつの間にかそうなるものではあるまい。


仮に全く感知できない呪い―――

そんなものは目的や意味が全くもって不明だが

それがあったとして、そしてそれを扱う存在がいたと

するならば自身と同様に歴史に名を残すはずだ。


そんな呪いや呪術師の名前などはこの時代の魔導書や

歴史書のどこにも書かれていなかった。


―――となると


『このいずれかであろうな・・・』


今やモンショの喫煙所となった研究室で

パイプの甘ったるい煙を一人くゆらせながら

山と積まれた自身の成果物を見つめた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ