36.思念
未練は誰にしもあるものだから
例えどんなに丁寧に埋葬されたとしても
その強い想いが遺されてしまうことがあった。
この世界で最もありふれたアンデッドである
ウィルオウィスプ―――
その最弱で、あまりにも力なく、
残された未練を嘆くようにただただ
宵闇の中で明滅を繰り返すだけの存在。
同族ともいえる他の不死者からも
もはや特にそれ以上の認識をされない程に
その種族には何の力も無かった。
力ない故か、あるいはその自らの未練に何らかの
答えを見つけ出したのか、放っておいても無いはずの
寿命を迎える様にいつの間にか消えさってしまう
その儚い存在はアンデッドと言えども人畜無害とも
言え、むしろその儚さを謳われ対極にある生者にすら
ある種の花鳥風月すら齎す様な・・・
何とも不思議な存在だった。
そのアンデッドの一種は当然の様に墓地では
よく見かけるものだ。
モンショが墓地に現れてから急に激しく自らを
主張する様に光輝き出し―――
そして消え入りそうになった時、モンショの
絞り出したその言葉に慌てたように
そのウィルオウィスプはその身体を
激しく明滅させていた。
えっ!?何で!!??
私はずっとずっとあなたに会いたくて・・・
本当にずっとここで気の遠くなるほど
あなたのこと待っていたのに・・・
私と一緒にいられないってどういうこと!!??
【 貴方に会いたい 】
ただ、その未練がずっとこの世に私の意識を
繋ぎとめ続けた。
その願いがようやく叶って、ようやく逝けると
思ったけど、これじゃ逝けないよね!?
『ワシのことを赦すことなど
できぬであろうが・・・』
・・・?
『それでも、どうか安らかに眠って欲しい』
『ワシのことは呪う程にも憎んでも構わん』
はぁ~~っ??
いやいやいや、えぇええ~っっ!!??
いや、違うよっ??
私は・・・
私はずっとあなたに会いたかったんだよ!?
それなのに・・・えぇ~っ!?
何だってそんな風に考えちゃうの??
私があなたのことを恨むなんてことある???
そんな必要なんて全然ないくらい私達
愛し合っていたでしょう!?
そりゃ不器用すぎたあなたに私は怒って
ばかりで・・・うん・・・・・
まぁ、そりゃ確かに誤解させる様なことは
あったのかも知れないけどさ・・・
私があなたのこと大好きだって愛してるって・・・
あんなに一緒にいたのに伝わってなかった
ことなんてある・・・?
いや、待てよ?この人なら、あり得るかも?
あんなに愛を囁いたのに、ずっと一緒にいたのに
結局、肝心なところで自信のない人だったものね・・
『おまえに呪う程に憎まれていたとしても・・・』
『おまえがワシに結果的に与えてくれたこの生命の
続きの時間は無駄にならないことを証明してみせよう』
『ワシらの子孫はしっかりと次の世代まで
続けて見せる』
『だから安らかに眠って欲しい』
貴方の事を考えない日なんて無かった。
きっと貴方は実は無事である日、ひょんと
あの部屋からいつも通りに出て来てくれるんじゃ
無いかってずっと思ってた。
あなたはきっと生きているはず。
あなたはきっとまだ生きてくれているんだ。
あなたは絶対に死んでなんかいない!!
死ぬはずなんて無い!!!
私はあなたにもう一度会いたい!!!
だって私たちはもう一度お互いに笑いあえなきゃ
死んでも死にきれないはずなんだ!!!
その衝撃に唯一その存在ができること
光輝くことをその瞬間忘れてしまった。
私の願いは・・・
私の想いは・・・
私が【あなたは死んでいない】と願ったから。
私が【もう一度会いたい】と縋ったから。
この私の執着が、あなたの魂をアンデッドに
変えてしまったの?
私はあなたのことを愛していたはずなのに。
私が、あなたを不死者にしてしまったの――?
私のせいで、あなたは今、苦しんでいるの――?
あなたを不幸にさせてしまったものは
私なのだろうか?
思考が停止してしまい、自分が消え去ってしまい
そうになるほどの衝撃は――
続いたモンショの言葉にかき消された。
『オリ―・・・』
『愛しているぞ』
うん、私も。




