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35.呪い

その墓石に僅かに宿るその魔力の残滓には

覚えがあった。

それは直近の研究対象であった自身のアンデッド

となった理由であろう自身の魔力に宿る異質な

何かそのものだった。





『今日はワシも行くとしよう』


ランカが今日はディーエル家の墓地に

行くと伝えると主からは思ってもいなかった

返答があった。


長い間、その墓守をしていたランカは

館に住むようになってからも何度も墓所を

訪れていた。


この館に来て初めて墓所を訪れたいと

主に願い出て快諾されるとランカは何気なく

言葉を続けた。


『モンショ様も参りませんか?』


旦那様が来てくれれば奥様も喜ぶはず。


主は珍しくその返答に言葉が詰まった。


『そうだな・・・』

『今は・・・』

『今はまだ、やめておくとしよう』


長い沈黙の後、主はそう答えた。


長く生きていてもその精神はまだうら若い

ランカにはその主の表情とその絞り出した

言葉の意味を窺い知ることは出来なかった。


ただ言うべきでなかった言葉を口にして

しまったことだけは解った。


『も、申し訳・・・』


『いや、良いのだ』


食い気味に発せられたその言葉は続いた。


『お前は何も間違っておらぬ』


帝国随一の魔術師ともてはやされた

魔力を持っていようとも

悠久の時を経て限りある命では得ることの

できない膨大な知識を得たとしても

その天性の誰にも理解されない程の知性を

以てしても


今更どんな顔をしてオリ―に会いに行けば

よいのかはモンショには解らなかった。


今はまだ・・・その勇気が無いだけだ。


それからランカは墓地に向かうときは

その断りを主に告げるだけとなっていた。




今日、ランカに墓所に向かうことを

告げられた時にモンショは自分でも

思いがけずにその言葉が口をついて出た。


ウダウダしていても行動に移さなければ

何も変わらない。

ならば動くべきだろう。


それにここ最近は黒幕探しも研究も

何もかもが進展がない。

ここいらで新しい風を入れるべきだ。


有言実行とランカと共に墓地に転移すると

その光景を前にモンショは立ち尽くした。


自らが命を分けた存在たちは思っても

いなかった程にその命を紡ぎ続け、

そしてその生を生きぬいた証がそこにはあった。

その証を前に頭が真っ白になった。

どうしようも無く湧きあがるその高揚感は

しばし思考を停止させた。


『モンショ様?』


いつもとまるで違う主の姿を心配する様に

ランカからは声がかけられた。

直ぐに止まった思考から意識を救い上げると


『さすがはランカよ・・・』

『見事に整えられておるものだな』


それは世辞などでは無く本心であると理解できた

ランカはぱぁっと顔を明るくした。


『ありがとうございます』


その言葉に更に心からの肯定の言葉を続ける

モンショの目に一番奥に鎮座する二つの

墓石が目に入った。


自分の墓なんぞをこの目にすることに

なるとはな・・・


そしてその隣に寄り添うように立つ

あの墓石は―――


続く言葉を終えるとモンショは歩み始めた。

一歩、ただ一歩・・・

一歩進むごとにモンショの身体は震えが

身体の奥底から湧きあがった。

もしその震えの意味の説明を求められたとしても

それに答える事はできやしないだろう。

 

オリ―・・・


言いたいことも聞きたいことも

山ほどあった。

もし叶うことなのであればその体温を

もう一度感じたかった。


いよいよ急くようにその墓石に近づいた

モンショはその受けた衝撃に足が止まった。


その墓石から認識したその魔力の残滓は・・・


もし自身をアンデッドにしたものが自ら産み出した

成果や未練などでは決して無かったのだとしたら

それは――


【呪い】


震える指先が、冷え切った墓石に触れる。


――そうか

自身を現世に繋ぎ止め、アンデッドへと変えた

この魔力の残滓は


きっと伝わることは無かったかもしれない。

それでもモンショはオリ―を本当に心から

愛していた。

その妻、オリーが死の間際か、あるいは

独りぼっちにさせてしまったその生の中の

ある瞬間で放ったのであろうその【呪い】――

それは純粋で、苛烈な程の


明確すぎる程の自分への拒絶だった。


「・・・そうか。そうであったか、オリー」

思わず乾いた笑い声が漏れた。


ただならぬその主の気配にランカは絶句し

ただその後ろに立ち尽くした。


どれだけ、どれ程に長い間が経ったのかは

解らない。


モンショは大きく息を吐き出した。


まぁ・・・呪う程に恨まれてしまっていても

それはそれで仕方があるまい。

むしろそれも当然のこととも言える。


『心配するな・・・』

『いずれワシもいつか逝くのだとしても』

『ワシは決してお前と同じところに

 逝くことはできまい』

『だから安心して眠るが良い』






その言葉にもう答えることのできない妻も

使用人もそれ以上言葉を発することはできなかった。


















この物語に少しでも目を通して頂けました

あなたに感謝いたします。

ほんの少しでもあなたの心に爪痕を

残せたのであればブックマークや評価で

応援して頂けますと幸いです。




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