33.4S
「以上で冒険者登録は完了となります」
「王都へようこそ・・・」
何度、口にしたかわからないこの言葉も
もはやルーティンと化した登録作業も
今回はよくぞヘマをせずに成し遂げられた
と自分を褒めてあげたい。
フェンリル・ウルフを従える程の冒険者が
王都を訪れたことは噂になっていたが
まさか自分がそれに対応することになるとは
思ってもいなかった。
冒険者たちが依頼の受領のために
込み合う朝の喧騒が終わり、
人もまばらとなってほっと息のつける
もうすぐお昼といった時間帯だった。
冒険者ギルドは有事の際の避難所としても
機能しているため強力な結界が張られている。
それが急に作動し、まるで雷鳴の様な音が轟いた。
続く外からの喧騒に思わず身体を固くすると
慌てた様に一人の少女が走りこんできた。
「ご、ごめんさい」
「うちの子が結界にひっかかちゃったみたいで・・・」
少女と一緒に外に出てみれば結界にひっかかった
というフェンリル・ウルフたちは結界から敵意を
感じ取ったのか軽くうなり声をあげた。
その恐ろしい姿を目の当たりにして思わず意識が
遠のいたが、その傍らにあった冒険者たちの
それを優しく窘める言葉にようやくそれを
繋ぎとめることができた。
「申し訳ありません」
「本来であれば従魔証があれば結界は
作動しないはずなのですが・・・」
咄嗟に出た言い訳じみた言葉にも
特に不快感を表すことは無く
ヴィーと呼ばれた魔女が言葉を繋いだ。
『そうなんですの?』
『結界があるなんてこの子たちにでも
まるでわからなかったようですわ・・・』
『こんな結界が存在するなんて・・・
さすが王都ですわね・・・』
ヴィーが魔力を瞳に全力で集中することで
そして初めて認識できるほどに巧妙に隠蔽された
結界を目にすることができた。
この王都にはこれほどまでに高度な結界を
張るものがいるのか・・・
そして従魔証という制約をそれに更に込めることが
出来るのだとすれば、それはなかなかに
ヴィーヴルの自分から見ても油断ならない術者だ。
緊褌一番に表情を険しくするヴィーの姿に
そのギルドの関係者は勘違いをしたようだ。
「ほ、本当に申し訳ありません」
「恐らく、従魔証に何らかの不備が
あったものかと・・・」
「すぐに再発行いたします」
慌てて職員がギルドに引っ込むその姿を
確認するとヴィーは口を開いた。
『あなたたち、大丈夫ですか?』
『何とかな・・・』
『痛った~・・・』
結界に引っかかったのは偽造された従魔証を
持つエスとビーではなく3人のヴィーヴルたちで
あった。
この子たちも結界に引っかかって気がたってる
だろうから誰かが見とく必要があるだろう?
新しい従魔証を首にかけると結界が反応することは
無かったが事実、群れの仲間を攻撃されて明らかに
気がたっているフェンリル・ウルフたちの御守りを
その冒険者の一団の女騎士はかって出てくれた。
流石に従魔証を着けていたとしても
こんな大型の魔物をギルドに通してよいのか
内心困惑していた私はその申し出に
胸を撫でおろした。
新発行された従魔証を手に入れたことで
空いた偽造された従魔証をそれぞれが
持つことでヴィーとイヴィ―はギルドに
すんなりと入ることが出来た。
冒険者登録の手続きを終えた私は
確認する様に書き込まれた書類に目を通して
その一点に目が留まった。
パーティー名:ディーエル・ファミリー
その名は王都では、一市民たる私にとっては
本当に特別な意味を持つ。
明らかに私は不自然に固まっていたのかも知れない。
不審そうな視線に気が付くと私は笑って答えた。
「申し訳ありません」
「素敵なパーティー名だなと思ってしまって・・・」
「あ、申し遅れました」
「私はエルと申します」
『「・・・・・」』
言葉を失った。
別に散らかっていると認識したことはなかったし、
アイルだって貴族の元使用人として何も
していなかった訳では無かったしそれに倣って
他の皆だって頑張って綺麗にしていたつもりだったけど
昨日の今日で館はまるで別物になっていた。
『おかえりなさいませ』
深々と頭を下げるもはや人にしか見えないバンシーのはずの
ランカのとびきりの笑顔が皆を出迎えた。




