28.巣立
3人のヴィーヴルたちがようやく
ゆっくりと眠れる様になったころ
『そろそろお前たちも街に行く頃合いか・・・』
夕食が終わって皆で後片付けをしていると
モンショが唐突に提案した。
「「 えっ? 」」
アイルとマグが同時に反応した。
「おじい様、それは・・・」
館を襲撃され、家族を失った記憶のあるアイルが
反対するのは想定内だ。
幼い弟に危険を冒させたくないその気持ちは勿論わかる。
『うむ』
本当は仇を討ち、遺恨を断ってからのつもりだったが
何時まで経っても埒が明かない。
『マグはここ以外を知らん』
ここにいれば確かに安全は担保されるが
狭い世界だけで生きることがその成長を
歪めてしまうことも容易に想像できる。
モンショは隠すことなく今まで分かったことを
2人に言って聞かせた。
『すまぬが、未だ仇敵は見つけられておらぬ』
別に王都だけに人が住むわけではない。
大きな都市はこの国中にある。
そこならば比較的安全と言えるだろう。
まぁ、正直言って今のこの2人が王都に行っても
賊などに後れをとるとはとても思えないが
その精神はまだまだ幼い。
簡単に騙されて思わぬ隙を晒すことになるかも知れない。
仇敵は何年かかってもその正体を掴めない。
それほどの狡猾さを持つ者が相手では幼い2人にとって
大きな脅威となる・・・はずだったが随分と状況が変わった。
2人にはそれぞれヴィーとヴィヴィという神竜が
それぞれについている。
その強大な叡智と力を目の当たりにした今、
2人を送り出すことには何の躊躇いも無かった。
「え!?じいちゃん一緒に来てくれないの!?」
モンショにとって、もはやバイブルとも呼べる
育児書に書いてあった。
可愛い子には旅をさせよ―――だ。
それに、アイルとマグには従魔契約を結んである。
その身の迫る危険を察知することもできるし
即座に傍に転移することも可能だ。
こればかりは魔物として生まれ変わった
自分の身をありがたく思う。
が、それもついて行かない理由となる。
何故、ワシは不死者となったのだ?
研究室にある山の様な研究の成果物のいずれか
であろうがそれもそろそろ調べたいところだ。
黒幕と同様に、そこもはっきりさせたい。
『私は・・・?』
イヴィ―が恐る恐る手をあげた。
『私はどっちにいけば??』
『それは好きにすればよかろう?』
『一緒に街に行ってお前の主を探してみるのも良い』
『ここに残って母を今は独り占めにしても構わんし』
『別にここに戻ってくるのは容易かろう?』
アイルとマグだってもう異空間を使った転移はできるし
三姉妹に至っては空を飛んでくることだってできる。
何なら別に日替わりで双方を行ったり来たりでも・・・
「それなら僕、王都に行きたい!!」
・・・お前、ワシの話を聞いていたか?
と言う視線を向ける祖父にマグは言葉を続けた。
「だって、僕たちが王都に行けばその黒幕ってやつが
しっぽ出すかもしれないじゃん!!」
「僕だってじいちゃんを困らせているやつ倒したいし!!」
「マグ・・・」
アイルがマグを見た。
幼かったはずの弟のその横顔はほんの少しだけ大人びていた。
いつの間にか頼りがいのある顔すら覗かせる様になっていた。
「おじい様、私からもお願いします」
「私だって・・・」
「私だって本当はお父さまとお母さまの・・・」
「皆の仇をこの手で・・・」
折角だから王都までの旅路も楽しんでみようと
わざわざ徒歩を移動手段として選んだ5人と2匹は
もうとっくに見えなくなっていた。
それでもその去ってしまった方向を見据えながら
モンショはもう随分と長い間、研究室でしか咥える事の
無くなっていたパイプから口を離すと煙をふぅ~っと
吐き出した。
その煙は今まで以上に味が良くも感じ、
まるで味を感じなくも感じた。
『まぁ、子供たちが巣立ってくのは初めてじゃないけど』
『何回経験しても慣れることなんて無いねぇ・・・』
『嬉しくもあり、寂しくもある』
土竜の言葉にモンショは応えなかった。
それでもその気持ちが解ってしまう土竜は
微笑みながら言葉を続けた。
『でも子供たちが自ら歩み出したことは』
『やっぱり誇らしいことなんだよ』
モンショはその言葉にも応えなかった。
土竜がとっくに地中に潜って休んだ夜も深い時間に
モンショは裏庭にある墓石の前に立った。
『お前たちの子は・・・』
『ワシが思っていた以上に立派に巣立っていったぞ・・・』
『嬉しくもあって寂しくもあって・・・』
自らの子が巣立つ様を見送ることはできなかった。
だが、孫とも呼べる存在たちの巣立ちを見送って・・・
『そして何とも誇らしい気持ちではあるな』
『お前たちもそう思ってくれれば良いのだが・・・』
その両親にかける言葉は、まるで自分自身に
かけている様なその言葉は止むことは無かった。




