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25.兄姉

「はたして・・・」

「民は血まみれの女王を望むかしら?」


妖艶な笑みを浮かべる長姉の姿を従属を願い出た

第2王子は仰ぎ見た。


―――おそらく今、この人が一番玉座に近い。


王国最強の魔術師軍団を従え、自らも最強の術師として

名を馳せつつも、いくつもの施策や事業を自ら立案し

実行してみせると王国に多大な利益を齎し王国を潤わせた。


権謀術数にも長け、時に王族としての自らの名が

傷つくことすら厭わないその苛烈なまでに徹底した

実利主義に生きるその存在は国中から、

その外からすらもその好んで身に付ける

真紅のドレスもあって【血の王女】と畏敬を持って

呼ばれていた。







数刻前、モンショ達が潜む影の主に第2王子が訊ねてきた。


「お兄さま・・・」


兄の姿を確認するなりパタパタと不器用に走り、

何事かを口走ろうとする兄に勢いのままに

抱き着いた。

その身体が酷く震えているのが解る。

眼には涙すら浮かんでいた。


それだけで疲れ切っていた第2王子のその顔に

僅かに笑みが浮かんだ。


「心配かけてごめんな・・・」


妹の身体を兄は優しく抱きしめ返した。


「僕は、姉さんの軍門に下る」


一通り話し終えると第2王子は切り出した。


「くやしいけど・・・」

「僕は器じゃなかったんだ・・・」


妹が何かを言う前に言葉を続けた。


「僕は兄さんのことも尊敬しているよ」


戦わせればこの世界に肩を並べるものはいないとまで

称されるその武勇はまるで伝説を目にしている様な・・・

そんな気を起させるほどに圧倒的な暴を持つ兄は

それだけで自らを含むその弟たちから敬意を持たれた。

事実、3人の弟たちは兄を敬愛し、心酔しきって

その配下についている。


権謀術策に戦場を思いのままに操る軍師気質の

第3王子、姉には遠く及ばないまでにも呪術で

名を馳せる第4王子、兄たちと比べて目立たなくても

広い視野で兵站を見事に維持する第5王子・・・


兄の一派が持つその武力は【覇王子】と呼ばれるに

相応しいものであろう。

それ故に第2王子は兄を王として戴こうとは思えなかった。


武人の端くれとして、むしろ好ましく

思えてしまうところではあるが

力こそパワーとか訳の分からないことまで

言い出しかねない愚直すぎる程に猪突猛進な

あの一派でこの国を治められるだろうか?


あまりにも戦いそのものにその能力が

偏りすぎている。

時に武力が一つの正義を成すために必要であることは

勿論理解している。

だが例え連戦連勝を重ね続けていたのだとしても、

その正義の前で当たり前の如くどれほどの兵となった

民が死んでしまうというのだろう?


あるいはその圧倒的な軍事力を持って勢力を

拡大し、国を富ますことはできるかも知れないが

それでもいずれ限界は必ず訪れる。

そしてその間、富む国に微笑む民衆の中ので

ただたった一人のかけがえのない誰かを

失ってしまったことでうまく笑うことが

出来なくなってしまう者もいるのだ。


なればこそ武力と政治力のバランスに優れた

自分こそがこの国の王にふさわしいと思っていた。

その考えが分不相応であったことを解らされた今、

姉の方が自らより優れていると認めたからには

自らを慕ってくれた者たちの命を奪われた

葛藤だってあるし自尊心だってあるが―――

それでもあの一派に国を渡すくらいであれば

この首を血の王女に垂れる事に、もはや異論はない。


本当は―――

言葉通りに温厚篤実なこの妹こそが王となって

治める優しさに溢れる王国こそが全ての人々の本当の

理想なんだろうなって思う。


でもそれはありえない。

清廉潔白なだけでは誰も救えない。







「なぁ・・・」

「あいつ、一体いつになったら俺のとこに

 顔を出すんだ?」


「兄さんだってプライドがあるだろうから・・・」


あいつが何を指しているのかが解ってしまう弟の一人は

別の兄を庇うように声を上げた。

覇王子と呼ばれるその存在はその言葉に不満そうな

目を向けると盃の酒を一気に飲み干した。


「プライドなんてもんで勝てるなら

 誰も苦労はしやしねぇ・・・」

「そんなもんはとっとと放ってさっさと

 俺のところに来やがれってんだ」

「あいつが今のあいつを見逃すはずはねぇ・・・」


言葉は悪くとも追い詰められた状況であろう弟を

心配していることがその声色にありありと現れている。


「最近、あいつツキに見放されてるの解んだろ?」

「俺んとこにくりゃ、不運ごとぶっ飛ばして

 守ってやれんのにな・・・」


長兄は次兄のことが心配で仕方がないのだろう。

空になった盃を何度も飲み干そうとしては

あーそいや空だったわと指先で盃を持て余して

不貞腐れる姿に3人の弟たちは笑いながら空の盃を

満たした。


「兄上が兄上を慕ってるのなんて誰が見ても

 わかるんだから・・・」


「もしかしたら明日にでも顔を出すつもりかも

 しれませんよ?」


んじゃあ、今日襲われちまったらどうすんだよと

心配は尽きないが・・・

それでもわざわざこちらから出向いてやるのも癪に障る。


「しっかし・・・」

「喧嘩は得意でも何つーかこういう・・・」

「駆け引きっていうの?」

「なんで俺たちはこうもうまくできねぇんだろうな・・・」

「こーゆーとこだけはあいつに勝てる気がしねぇ・・・」


だからこそあいつ、血の王女にだけは王座を譲る気は無い。

確かに頭が回るのは認めるし、その手腕は国を

潤わせてはいる。

だが、時に小をあっさりと切り捨てる非情な判断を

瞬時にしてみせる姉は覇王子たちから見れば

あまりにも誠実さに欠ける。

むしろその目には傾危之士として映った。


「だからこそ・・・」

「この計画は絶対に成功させなければなりません」


「ああ・・・」

「俺たちはあいつに王座までの道をただ切り開いて

 やりゃいいだけだ・・・」


幸いなことに自分たちは自分が戦以外ポンコツな

ことが解らない程までに馬鹿でもなかった。


「俺たちじゃ国を治めるなんてできる訳がねぇからな・・・」




「ごらんなさい」

「私は既に手も、名前ですら血に塗れているわ・・・」

「それでも貴方は私を王として相応しいと思うのかしら?」


答えに苦慮していると姉弟全員が仲がよかった頃の様に

血の王女が姉の顔をしていることに気が付いた。

その視線からかつての懐かしさを感じ、一瞬の気の緩みを感じた。


「あなたには酷いことをしましたが・・・」

「謝罪する気はありません」

「ですが私の剣となると言うのであれば相応の礼を

 持って応えましょう」


その言葉と共に第2王子の前に一振りの剣と

ネックレスが運ばれてきた。


「私に従うと言うのであればそれを取りなさい」


言葉に従う第2王子の胸元にかけられたネックレスを

血の王女はしげしげと見つめた。


「ふふ・・・」

「あなたに二心は無いようね・・・」


これは・・・何かしらの魔道具か?


「ああ、特に害があるものではないわ」

「むしろあなたを守ってくれるはずよ」


また姉の顔に戻り昔の様に悪戯に微笑みかける姿が見えた。


「私の下に着くのであれば知っておきなさい」





「俺じゃ王は務まらねぇ・・・」

「血まみれの私は王になる資格なんてとうに無いの」


「俺たちはあの妹を王にする」

「王になるのはあの娘よ」


「力がねぇってんなら俺たちが力を貸すまでだ」

「汚いことは全部私が引き受けるわ」




「「 王はただ純粋無垢であればいい 」」






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