24.姉妹
『確かに私たちヴィーヴルが誓いを無下に
されたのなんて前代未聞でしょうね』
『でも、アナタは本当にモンショ様を主だと
思ったのかしら・・・?』
『だってすっごく強そうじゃん・・・』
『たったそれだけで決めたの?』
イヴィ―は姉の言葉にむっとした顔を向けた。
『お姉ちゃんたちは良いよね・・・』
『もう主が見つかったんだから・・・』
そっぽを向いてふて腐れる様に机に
突っ伏した妹の姿に2人の姉は苦笑した。
『まぁ、こうなって焦っちゃう気持ちも
解らなくも無いのだけれど・・・』
長女であるヴィーは顔を出したその瞬間に
まるで時間が停止したよう動けなくなった。
一目見た人の子供にその目を奪われた。
最愛の母親の姿は勿論その目には写っていたが
それでもその人の子から目を離せなかった。
恋心・・・などとはまるで違った。
心の奥底から湧きあがる親愛と忠誠心と庇護欲と――
どうしようもない胸の高鳴りとともに
それを理解することは容易かった。
『私の主・・・』
ヴィーより少し遅れて自らをこの世に認識した
ヴィヴィが最初に目にしたものは姉が大地に向けて
泳ぎ出した姿だった。
その後ろ姿に血のつながりからくる愛おしさを感じ
嬉しくなって夢中でその後を追った。
溶岩の水面を割ったところで止まった姉に
追いつくとその嬉しさのままに姉に抱き着いた。
『お姉さま・・・』
始祖、ヴィヴィアンの記憶はとうに受け継いだが
私は恵まれているのだと解る。
ヴィヴィアンは長い間ずっとひとりぼっちで
過ごしたが少なくとも私にはヴィーヴルの、
同族の姉がいた。
それだけでそれがどれだけこの世に生を受けて
心強く感じられたのかは、それはきっと私たち
ヴィーヴルだけにしかわからない。
『・・・お姉さま?』
姉は私の抱擁に応えるように、頭を優しく
撫でてくれたがその目が私を見てくれることは
無かった。
目を見開き何かを見つめ、ただその鼓動が
高まり続けていることがその身を伝って
ありありと解った。
思わずその視線を追ってみれば―――
その理由は直ぐに本能で理解できた。
『私たちの主・・・』
互いに抱きしめ合いながら、産まれてすぐの
その奇跡的な邂逅に互いにただ我を忘れて魅入った。
『ママ・・・!!』
溶岩から顔を出すなりものすごい勢いで母竜に
飛びつく妹の姿に我に返った二人は溶岩から
ようやく全身を現して主の元にゆっくりと歩いた。
その間にも愛情をその目に湛えながら妹を優しく
舐める母竜の姿が見えて安堵して嬉しくなりつつも
その目は主を捕らえ続けていた。
真っ直ぐに自分を見て近づいてくるただならぬ姿に
主となる人の子からは戸惑いと驚きと―――
そして僅かな失望の色が感じ取られた。
少しだけ背筋が寒くなった。
私の力は主が望むものに達していないのかも知れない。
でも、それでも精いっぱいお仕えしよう。
主が望む様に強くだってなってみせる。
強い決意を持って人の子にまるで目線を合わせる様に
ヴィ―がマグにヴィヴィがアイルに跪いたところで
互いにんっ?と目を見合わせた。
えっ!?そっちなの??
互いに最初から見ていた相手が微妙にズレていた
ことにここにきてようやく気が付いた。
互いに目線を合わせていたのは主たちも一緒だった。
「ぼ・・・僕、お兄ちゃん・・・だよね?」
恐る恐る言葉を発したマグの顔には残念そうな
気持ちが濃く表れたいた。
あ、もしかしてさっきの失望の色って・・・
そういうことなの?
それからはそれぞれに主に誓いをたて、
驚愕し遠慮するアイルとマグは
『私のことが嫌いなのですか?』
という殺し文句にあっさりと白旗をあげて
その宝玉を額に移した。
いきなり生涯の主を決めた姉たちに妹が驚愕して
大騒ぎしている間にもアイルとマグの傍にいて
警戒の色を隠そうともしていなかった
フェンリル・ウルフたちは姉妹と姿形の違う
母竜から感じ取った匂いに明らかに戸惑っていた。
『ねぇ・・・』
『主ってそんな簡単に決められるものなの?』
机に突っ伏したままイヴィ―は産まれてすぐに
生涯の主を決めた姉たちに聞いた。
『アナタにもいつかきっとわかるわ』
『焦らなくてもアナタの主はちゃんと見つかる』
『私たちと一緒に探してみましょう』
『それまではお姉ちゃんたちに甘えておきなさい』
『私たちも大事な妹をもっと可愛がりたいし』
くすくすと笑いながら突っ伏したままの頭を
撫でる姉たちの優しい言葉に相変わらず頭痛はやまない
のだけれどそれでもイヴィ―は姉たちに見えない様に
嬉しそうに微笑んだ。




