23.追憶
『この娘がモンショ様が私の宝玉を
受け取らない理由ですか?』
『む・・・?』
『この娘に仕えよと?』
王都の影の中に共に潜むヴィーヴルが
怪訝そうな顔で訊ねた。
当たり前の如く全員でも食べきれなかった
山の様なケーキの残りを異空間に保存しながら
モンショは食休みにと孫たちと3人の竜属の娘に
お茶を、土竜やエスとビーにはベリーを
搾った水をそれぞれ用意した。
ヴィーヴルとして一生に一度のはずの忠誠の誓いが
まさかの却下を受けて落ち込む姉妹の末っ子を
姉たちとその主となったアイルとマグ、そして
何より母竜が慰めていた。
エスとビーもその様子に心配そうに
鼻を鳴らしている。
『アンタ、本当にこの子の力要らないの?』
『伝説の竜属の力を手にする機会なんて
そうそうないのよ!?』
ちょっと悪者っぽくなってしまったモンショが
流石に気まずく思い、何と説明するか
考えを巡らせていると母竜から抗議の声が飛んだ。
『まぁ・・・その・・・』
『何と言えば良いのか・・・』
『ならば、お前はその力が欲しいのか?』
土竜にとって我が子は愛情を注ぐべき相手であって
力を貰い、その加護を受ける対象などでは決してない。
むしろそれは全身全霊を持って守り抜くべき存在だ。
『そんなものを欲しがる親がどこに・・・』
ああ、そういうことか。
こいつもきっと同じような気持ちなんだろう。
モンショの我が子に対するその気持ちに
嬉しくもありつつ、土竜はその気持ちを
愛娘にどう伝えようか思索した。
この数年でこいつが小難しいことにだけは
口が回るのに、肝心なことはうまく言葉に
できないやつだということは解っている。
きっと伝説の竜属の力に興味がないと言えば
流石に嘘になるんだろうけど、それでもこいつが
この子の力を受け取ることは無いんだろうな・・・
どうせうまく言葉にできないであろう
モンショの代わりにその気持ちを代弁する
母竜の言葉にも末の娘は
納得がいかない様子で涙を浮かべていた。
3人のヴィーヴルたちは母竜からそれぞれに
ヴィー、ヴィヴィ、イヴィ-と安直に名付けられた。
『それでも納得いかないっ!!』
『なんで私の力を受け取って貰えないの!!』
自らの力の結晶を受け取らなかった不死者は
それでも私に母と同じく愛しむ様な眼差しを
向けてきた。
それなのに・・・
じゃあ、何で・・・!?
最上位の竜属として生を受けた3人は産まれた
ばかりというのに、夜も更けて皆が各々に休みだした
この時にも未だ睡魔に襲われることは無い。
それどころか自分自身がまるで経験してきた
かのようにかつてのヴィーヴルたちの
記憶が流れ込み続け、それを咀嚼する様にして
知識を蓄え、急速にこの世に適応し始めるその行為は
もうだいぶマシになってきたとはいえ、
3人に酷い頭痛を齎し、夜も深いと言うのに
むしろその目を冴えさせていた。
この世に生を受けた瞬間から自身の種族としての
走馬灯が過り始め、頭が割れそうになるその感覚に
顔をしかめるイヴィ―は溶岩から出ると
その目に映った母竜の姿に姿形は自分とは異なれど
その存在がこの世に自身の生を授けてくれた大事な
存在であることが解った。
『ママ・・・!!』
その瞬間には頭痛を忘れ、込み上げる愛おしさの
ままに母竜の顔に文字通りに飛んで抱き着いた。
・・・?
何か一瞬、母竜が不本意に慌てた姿が見えたような・・・
私たちヴィーヴルの始祖、ヴィヴィアンと呼ばれた
その個体は産まれながらに姿形の違う火竜の母竜と
兄弟たちから疎んじられた。
産みの親からすら最低限の保護しか受けられなかった
ヴィヴィアンは遂にその生涯の伴侶となる主と
出会うまでずっと愛情に飢え、
そして孤独に数百年の時を重ねていった。
その悲しい記憶は―――
産まれて直ぐに頭の中に流れ込んできた。
私もヴィヴィアンの様に母に祝福されて
いないのだろうか?
その考えに至り、どうしようもなく込み上げる
恐怖におずおずと抱き着いた母竜の目を見れば・・・
その考えは杞憂であったことが解る。
その愛情にあふれる眼差しにひたすら安堵した。
じゃあ、さっきのは・・・?
言葉も言わずその頭をただ擦り付けてくる母竜の
愛情に嬉しくなりつつもその違和感に頭を巡らせた。
ふと下を見ると、溶岩から飛びつくようにして
抱き着いてしまったために身体に纏わりついていた
それを周囲にまき散らしてしまったことに
気が付いた。
そして雨の様に降り注いでしまったそれから
母たる土竜の魔力がそこで大事な何かを
守っていることにも・・・
『ご、ごめんなさ・・・』
イヴィ―のその謝罪の言葉は母の優しい愛撫に遮られた。
『確かに私たちヴィーヴルが誓いを無下に
されたのなんて前代未聞でしょうね』
我が子が纏う羊水の様な溶岩をその魔力で
冷やした土竜はその魔力を解いた。
これは・・・人の子?
そして私に抗議する様に吠えたてる
この動物は・・・うん、フェンリル・ウルフだ。
この瞬間にも知識を得続けていたイヴィ―は
そこに見えたものに首を傾げた。
こうしている間にも過去の自らの種族が遺した
記憶が知識として流れ込んではいたが
でもこんな状況は同族が体験したかつてのその記憶
の中にはまるで無かった。
怪訝な顔をするイヴィ―の頭をモンショは
孫たちにそうする様に優しく撫でた。
『それはワシが決める事ではあるまい?』
『お前の主は』
『お前自身で決めるべきなのだ』
変わらずその不死者からは自らを見る眼差しからも、
そしてその言葉からも神竜の一角として生を受けた
感知能力をもっても尚、愛情しか感じ取ることが
できない。
それは嬉しくもあるが・・・
じゃあこの人は何だって私の力を
受け取ってくれないんだろう?
どうしてなの・・・??
神竜の叡智をして尚、理解できない事象に
イヴィーは頭を悩ませた。




