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02.姉弟

『・・・オリ―?』


やはり妻からの返事は無かった。




その代わりにと感知の外から振るわれた凶刃を

モンショは素手で受け止めた。

無敵の軍隊を作るために開発した身体強化の魔法を

纏ったその身体には並みの刃などは通らなかった。


ほう?

ワシがすんでまで感知できぬとは、やるではないか・・・


と、その姿を見てモンショは不審に思った。


その幼子とも呼べるメイド姿の少女はとても賊とは思えない。

オマケにその奇襲に失敗すると泣きじゃくっている

赤子を明らかに守る様に自身とその間に身を置いた。


ふむ?


『おぬし・・・』

『オリ―に雇われたものか?』

『ならば主の顔くらいは覚えるべきであろうな』

『で、オリ―はどこにいる?』


少女は言葉をかけられた事すら意外な様に驚愕の表情を

一瞬浮かべたが、キッとモンショを睨みつけた。


全く、オリ―の奴め・・・

使用人の教育すら行き届いていないのか・・・

まぁ、あの性格では使用人に怒ることすら

出来ないのであろうがな・・・


懐かしい妻の姿を思い浮かべて思わず笑みが漏れた。


・・・懐かしい?

そういえば、随分とオリ―と言葉を交わしていない気がする。

やれやれ、本当に研究に集中しすぎたか。




この国の貧民街で産まれたその少女はこの館に

来るまでに泥水を啜るように生きていた。


両親の顔なんて知らない。


でも自分がここに存在しているってことは

きっと両親はいたんだろう。


ただ生きるために自分でも誇れない事をずっとしてきた。


道楽のつもりか?


荒む心に任せて貧民街を視察に来た貴族を襲った。


こっぴどい目にあわされても、それでもその貴族を

睨みつける少女をその貴族は憐れんだ目で見つめた。


そんな目で見るんじゃねぇ!!


いつ死んでも構わないと思っていた。

今日が死ぬ日なら最後に目にするものが自分への

同情の瞳だなんてことは癇に障った。


これでも一生懸命に生きてきたんだ。

誇れない生でもただ孤高に生きてきた自分の命は

他人に同情される謂れなんかない。


「これほどまでにここは追い詰められていたのか・・・」


全く予想していなかったことに少女はその貴族に

連れ帰られると人生で初めての湯浴みの後に

メイド服を着せられた。


・・・はぁ?

何のつもりだ?


最初はこれも貴族様の道楽なんだろうと思っていた。


まぁ、命あっての物種か・・・


その礼にと道楽に付き合ってやっていたつもりだったが

何時からだろう?


その貴族様が大事に思えたのは。




その不気味に笑う相対する存在に少女は内心恐怖しつつも

それをはねのける様に叫んだ。


「ディーエル家は私が命に代えても守ってみせる!!」


私たちはここでおしまいみたいね・・・

どうか、弟を守ってあげてね・・・


僭越なことは解っている。

顔も知らない両親なんかより実は親の様に想って慕っていた

主が最後に自らにかけた言葉をその頭の中で繰り返した。


この身を犠牲にすることなんて厭わない。

どうか、どうか最後まで御傍に・・・


懇願する少女の頭を婦人はこの状況をまるで

理解していないかの様に微笑みながら愛おしそうに撫でた。


「ずっと・・・」

「ずっと娘の様に想っていましたよ?」


「全く、じゃじゃ馬な娘には本当に手を焼いたぞ?」

「お姉ちゃんなのだからここで我がままなんて言わないよな?」


悪戯に微笑む両親の顔からは諦めに似た思いが感じ取られた。

きっと自分たちが襲われた理由なんてとうに解っているんだろう。


有無を言わさず、この隠された書斎に弟と共に押し込められると、

直ぐにいくつかの剣閃と魔法の音の後に静寂が続いた。


この子は最後の希望だ。

全てを与えてくれた、初めて自分に愛情というものを教えてくれた

この家の忘れ形見だ。


決して許されない想いだと思っていたのだけれど・・・

まるで弟が産まれたかの様にこの子のことを想ってはいたが

それが何と許されてしまった。

ならば姉としてこの子はこの身に変えても守らなければならない。






・・・何言ってんだ?こいつ??


そのディーエル家の家長に剣を向けるとか

やっていることが随分と無茶苦茶ではないか?


はぁ、やれやれ・・・


とその現状に頭を悩ませたモンショが頭を掻きながら

何気なく向いたその先で、その先にあった鏡に映る

自分の姿にその掻く手が止まった。











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