18.感想
「あそこだけ、すごくきれいに光ってませんか?」
モンショと視界を共有しているのを忘れて
自分が思ってた方向と違う場所を指さして
違う違うと慌てているオリ―の姿に溜め息が出た。
「何を聞かれようと・・・」
「違いますよ?」
「私はあなたに問うてはいないんです」
モンショの言葉をオリ―が遮った。
「何かの答えが欲しい訳では無くて」
「あなたがこの景色をどう思っているのかを
知りたいんです」
「つまり、私が聞きたいのはあなたの感想です」
「・・・感想?」
「ええ・・・この際ですから」
「あなたが何を見て何を思うのかが知りたくて」
まぁ少し頭を休めるのも悪くない。
「で、あそことはどこだ?」
「あ、え~っと・・・」
視点の違いに苦戦しながらオリ―は見つけた
光輝く場所を指さした。
「なるほど」
「確かにあの場所は魔力の流れがぶつかりあって・・・」
「だから違いますっ!!」
「・・・きれいじゃないですか?」
「・・・そうだな」
それからいくつもの言葉を交わした。
「何かこの空間、色々と削られて色がついて・・・
まるで彫刻でできた部屋みたいじゃないですか?」
「ここでは流れる魔力によって外壁が削られて・・・」
「そうじゃなくて」
「・・・そうだな」
「確かにそう見えるかも知れん」
「自然の芸術ってやつですね」
「そうだな」
「あの中では何色が好きですか?」
「魔力の色は見るものが得意とする魔法によって・・・」
「うん、それで何色が好きなんですか?」
「・・・白だ」
「お~・・・」
「あの七色以外を言うのは予想通りでしたが・・・」
「絶対、黒って言うと思ってました」
「まぁ黒も好きだが・・・」
オリ―の黒髪が目に入った。
「お前の髪は確かに美しいな・・・」
何となく言った【感想】だったが急に足を
バタバタとさせるオリ―を焦って強く抱きしめた。
「言ったはずだが・・・」
「この魔力の中で生存できるものは少ない」
その心臓が高く跳ね上がっているのは解ったが
すぐにジタバタするのを止めるオリ―の顔を窺えば
何事も無かった様にスンっとした顔をしていた。
「今のはちょっと反則でしたね・・・」
「そうか?」
交わす言葉に終わりはなかった。
「・・・お腹すきませんか?」
「そうだな」
ふと気がつけば随分と長い時間こうしていたようだ。
研究している以外全ての時間は無駄と断じていたが
自分でも意外なほどにオリ―と過ごした
この時間に対しての悔恨も焦燥も湧かない。
むしろ未だ出ぬ自身の結論に長い間ずっと
張り詰め続けていた意識がほどけていく様な・・・
これを穏やかな気持ちと言うのだろうか?
無駄と呼べる時間を過ごしたはずなのに
ぐちゃぐちゃに絡まっていた思考は気がつけば
むしろ明晰となり、そしてその他愛も無い会話の中で
そこから新しい仮説を産み出していた。
「ふむ・・・」
「有意義な時間だった・・・」
いつもよりはるかに遅い時間でも主人とその後を
追った婦人が無事に帰ってきたことに使用人たちは
胸を撫でおろした。
いつも食事中、顔を合わせているはずなのに
何の会話も無い、むしろ緊張感すら漂うはずの
その日の夫婦の夕餉は違った。
「この家の食事はいつも美味しいですよね」
「そうだな・・・」
「特にこれは好物だ」
海鮮のスープを口に含んだモンショは
満足そうに笑った。
長いとは言えないが、それでも仕えてきて
初めて聞くその言葉と初めて見せるその邪悪な笑みに
動揺した使用人が手を滑らせて落とした皿が
ガシャンと割れる音が響いた。
今までもそうであったようにそれに対して
主人は無言で一瞥をくれただけであった。
今までも叱責されたことなどはない。
それでも眼光鋭い主人のその目に使用人たちは
震えあがり、主人の前では使用人たちは常に
緊張の中にいた。
「・・・大切なお皿でしたか?」
「皿を大切と思ったことは無いな」
「料理の本質は器より味だろう?」
そんな主人の言葉に使用人たちの間に動揺が広がる。
「ふふ・・・」
「あなたはそう思いますか」
「実は料理は見た目も大事なんですよ?」
「ほう?」
何というか、今日の主人と婦人の晩餐はいつもとまるで違う。
「実は私、料理するの得意なんです」
「好みが解ればあなたの胃袋なんて簡単に掴めて
しまうんですよ?」
そういうとモンショが好物と言った海鮮のスープを口にした。
・・・なるほど、この味か。
それに無言の食卓だって顔を合わせて食事をとってきたのだ。
夫の料理を食べる時の表情のわずかな揺れはしっかりと
覚えている。その揺れ方が好物の方だと解れば容易い・・・
はず。
「ふふ・・・」
「明日の夕食にそれをあなたに教えてあげます」
次の日のオリ―が丸一日かけて用意した夕餉を
夢中で口に運んだモンショは言った。
「なるほど・・・」
「あえて不味そうな見た目を装うことで
この味を更に引き立てたのだな」
「確かにこれは・・・見た目に反して本当に
驚くほどに美味い」
お世辞にも見た目の良いとは言えない料理の数々は
本当に味が良かった。毎日食べたいくらいだ。
「・・・不味そう?」
料理の腕を称賛したはずなのに何故か理不尽にも
オリ―に怒られまくったモンショは目を白黒させていた。
そこにはずっと夫婦での食事の時間にあった緊張感などは
まるで無く、ただ騒がしくそして和やかな時間だけが流れていた。




