17.共有
「私の目に映るのは優しい光だけみたい・・・」
振り返りながら笑うオリ―の姿に不思議と胸が高鳴った。
ダンジョンに向かうために何度も家を空ける
モンショの後をオリ―がこっそり後をつけてきた。
それは勿論すぐにモンショにバレて
追い返そうとしたが、どんなに危険な場所かを
伝えてもなかなか言うことを聞いてくれない。
「興味本位で向かう場所ではない」
「おまけに完全な闇の中だぞ?」
「でも、そんな危険なところに貴方は・・・」
「いつも私を独りぼっちにして向かうんでしょう?」
きっとそこにはそれでもいかなきゃ
いけない何かがあるんだよね?
私も妻として夫が何をしているのかを知る
権利がある!
くだらない押し問答を続けていても時間の無駄だ。
かと言ってここに置いて行っても、それでも
闇の中をついてきそうな覚悟が写る瞳に
モンショからため息が漏れた。
「そこまで言うなら連れて行ってやるが・・・」
「ワシから絶対に離れるな」
オリ―からの返事を待たずその身体を抱きかかえると
そのままモンショは無駄にした時間を埋める様に
ダンジョンの中を奥へと飛ぶように進んでいった。
ダンジョンの底近くまでくると魔力が
複雑な流れを産み出している開けた空間を見つけた。
・・・ここで良いか
確かに一定の規則性を持って流れてはいるが・・・
その色彩も明度もそして時にその流れですら
目まぐるしく変化してゆく。
その本質が何であるのか、魔力を観察し続けても
未だそれを見定めることはできない。
急に立ち止まったことに驚いたのか
ずっと首筋に回されていたオリ―の腕に力が入った。
その心臓は酷く高鳴っているのが解る。
「だから言ったのだ・・・」
「真の闇とは人を簡単に恐怖に落とし込むものだ」
「いや、これはそうではなくてですね・・・」
「まぁ、よい・・・」
「ワシはしばらく観察を続けるから」
「窮屈だろうが離れるなよ」
ここはモンショですら気を抜くと身体に異変を
きたすほどに魔力が濃い。
オリ―の足をゆっくりと地に下ろすとそのまま
妻を腕に抱いたままゆっくりと腰を共に下ろした。
密着した姿勢では居心地が悪かったのか
少し身じろぎするオリ―を後ろから抱きしめる形で
落ち着くと身体の周囲に強固な障壁を張り巡らせた。
長い沈黙の後――――
「あなたには一体何が見えているのですか?」
ぽつりとオリ―が呟いた。
「魔力だ」
たった一言でも返事が貰えたことが意外だったのか
抱きしめられる腕に黙って手を添えているだけだった
オリ―の落ち着き始めた鼓動がまた高まった。
ふむ、そろそろ闇の恐怖に飲まれたか・・・
外部からの全ての刺激に過敏に反応している。
だが、せっかく来たというのに今日はまだ魔力に
対する検証すべき仮説がまとまっていない。
灯りの魔法を使って落ち着かせても良いが
その光はこの空間の魔力に対してノイズとなるだろう。
となると・・・
「試したことは無いが・・・」
「お前の眼にワシに見えているものを映してみよう」
モンショは魔力を操作すると自身の視界と
オリ―の視界を繋げて見せた。
「・・・っ!?」
途端にビクっと跳ね上がる様に動いたオリ―を
モンショは離さない様に強く抱きしめた。
「どうやらうまくいったようだな・・・」
「これ・・・」
それ以上の言葉は直ぐには出てこなかった。
だが出てくる前にモンショはその言葉を封じた。
「何も聞くな」
「残念なことに・・・」
「恐らくワシでは未だ何も答えられん」
それでもオリ―は言葉を続けた。
「これが・・・」
「これが貴方の見ている世界・・・」
見えた景色に湧きあがるであろう数々の疑問では
無かったその言葉に妻に目を移すと涙目に目を
輝かせながら笑みを浮かべる姿が写った。
視界を共有しているためか自身のその姿も当然
見えていて気恥ずかしそうにプイと目を逸らす
そんな自分の姿もしっかりと自身の目に映っていて・・・
「も・・もう、いいです」
「しばらく観察を続けるが、構わんか?」
「はい・・・」
視界の共有を解くとオリ―は糸の切れた人形の様に
全力でモンショにもたれかかるようにすると
その抱きしめられる腕にギュッと自身の手を重ねた。
そろそろ新たな仮説がまとまってきたところで
オリ―が口を開いた。
「朴念仁のクセに・・・」
「顔だけは良いから・・・」
「実は悪い虫でもついてるんじゃないかって」
「ちょっと思ってました」
「・・・急に何の話だ?」
「いえ・・・」
何が面白かったのか全くモンショには
解らなかったがオリ―はくすくすと笑った。
「もう一度、あなたの見えているものを見せてくれませんか?」




