16.才能
アイルは呆けた様に光球を見つめていた。
・・・これが魔力?
昨日見た七色に美しく輝く魔力とはまるで違う。
目の前に在る光球も確かに美しく力強く輝いてはいるが
その光の性質の差は明確だった。
「おじい様に見せて貰った魔力とは全然違います・・・」
『そうなの?』
それは恐らく土竜にかけられた言葉では
無かったであろう。
『でも、まぁ魔力が見えたってことに変わりはないさ』
『私なんてまったく見えないし・・・』
それでも土竜は言葉を続けると周囲の魔力を集め
圧縮していた渦を消し去った。
『さ、もうこれでおしまい・・・』
『言ったと思うけど高濃度の魔力ってのはホントに
危ないのよ?』
核を失うと光球は徐々に霧散し、解放された魔力は
薄い光の帯となってダンジョンの流れに戻っていった。
アイルとマグは流れゆく魔力をまるで見送る様に
見つめ続けた。
帰ってきたモンショは「おかえりなさい」と
小走りに近づく孫たちの姿に笑みを浮かべると
その頭を撫でて抱き上げた。
『遅かったじゃない』
『大丈夫なの?どこかケガしてない?』
『どうやら待たせてしまったようだな・・・』
産卵を終えて想像以上に痩せ細った土竜の痛々しい姿に
心痛める孫たちの悲しそうな顔に触発されて、
栄養のありそうな大物を狩り続けている内に
つい時間を忘れて大物狩りに夢中になってしまって
いたようだ。
悪い癖だ。
『だが、その待たせた時間に見合う獲物を用意した』
モンショは次々と異空間から大型の獲物を
取り出した。
『お~・・・』
『こりゃとんでもないご馳走だね・・・』
ダンジョンの魔力に産まれながらに中てられていた
その獲物となった魔物たちは肉塊と化しても尚、
グロテスクな見た目をしていたが魔物である
土竜にとってはその見た目は大して重要ではない。
魔物である土竜にとってその肉に内包する魔力の量は、
食欲を刺激するものであった。
胸に抱いた孫がギュッと自らの衣服を掴み
その孫の腕の中にある別の孫が泣き出したことで
思わずそちらに目を移すと恐ろしいものを見て
恐怖に染まって自らに縋りつくようにしながら
きつく目を閉じて必死に土竜の餌となる肉から
目を背けている孫たちの姿があった。
―――しまった!!
遅れてしまった詫びの意味もあって直ぐに土竜に獲物を
渡してしまったが見誤ったようだ。
灯の少ないここでは見えやしまいと高をくくっていたが、
そういえば確かにマグには魔力が見えていた。
そのマグはともかくアイルもここまで怯えるとなると
僅かなりともここには溶岩の灯が届いているのかも知れない。
『あっ』
『そういえばその子たち、ちゃんと見えているみたいよ?』
差し出されたご馳走に遠慮なくもぐもぐと舌鼓をうつ
土竜の言葉に『!?』と驚きの視線を移すと
「わ、私・・・魔力が見える様になったみたいです」
「マグも・・・」
ダンジョンの魔物というグロテスクな生物を初めて
その目にして怯え切りながらもアイルは気丈に
モンショに報告してみせた。
魔力を見定めるだけで本来であれば数年かかると
思っていたが、なかなかどうしてあっさりと
その壁を超えて見せた孫たちに、その孫たちが
見たこともない程の喜色を露わにしてその頭を
撫でまくって抱き上げて『さすがは我が孫!!』
と褒め倒すモンショの姿を土竜は口を動かしながら
苦笑する様に眺めていた。
『あ~あ・・・』
『私の卵も早く孵らないかねぇ・・・』
と自らの卵がある溶岩の方に目を移した。
私だってそうやって親バカしたい・・・
土竜にとって産卵するのは初めてでは無かったが
モンショ達の騒ぎ様は羨望の眼差しを向けさせるものだった。
「おじい様が魔力を見せてくださったからだと思います」
「でも・・・」
「私に見えている魔力ははおじい様が見せてくださった
魔力と違うみたいで・・・」
百聞を越える一見をどうやらモノにして
そこにある見えない存在を認識したらしい
アイルの少し暗く表情を落とした言葉に
『ふむ・・・』
『例えば赤が火の色、青が水の色として・・・』
『もし赤と青の概念を実は相手にとっては
逆に認識していたとしても』
『結局、火の色や水の色と言われれば同じこととなるのだ』
『その目に映る色が違っていたとしてもな』
・・・?
アイルはきょとんと祖父を見上げた。
『まぁ、お前の見える魔力がワシと同じである必要は無い』
「でも・・・」
アイルはおずおずと言葉を繋いだ。
「私に見えるのはおじい様みたいに七色に輝く
魔力じゃなくて・・・」
『ほう?』
『そうだな・・・よく言われた話を借りれば』
『美しく優しい光が見えるという事か?』
アイルは驚いたようにモンショの顔を見た。
『なるほどな・・・』
かつての帝国にも魔力をそう認識する者たちがいた。
それらは主に術師とは対極の魔法を操る聖職者たちであった。
どうやらアイルはそっち方面の才能があるらしい。
妻であったオリ―と同じように。




