15.灯火
『へぇ〜・・・』
モンショの手土産をもぐもぐと口にしながら土竜は
アイルからここに来るまでのことを聞いていた。
ここは溶岩地帯という光源があるためアイルでも
視界が効く。
ここなら闇の飲まれて恐怖することも無いだろうと
モンショは土竜にアイルとマグを預けてダンジョンの
奥深くへと向かっていった。
魔力って見えるもんなんだ。
「土竜さんは魔力が見えるんですか?」
『う~ん・・・』
『見えるっていうのは違うかな・・・』
何といえば良いのだろう?
その目に見えてるわけでは無いが、魔物である
土竜はその周囲やあるいはその目にする
個体が内包している魔力を感じ取ることができる。
それが魔物とこの世界に住む人々や亜人との
決定的な違いだった。
それにその身に宿しているその量も
それらの種族より遥かに多い。
魔物である土竜から言わせれば自分の手足みたいに
それは当たり前に感じ取れて操れるものであって・・・
何とも説明が難しい。
「??」
「魔力が見えなくてもダンジョンで周りが
見えるんですか?」
魔力という灯りも無しにどうやってあの恐ろしい
暗闇を見通していると言うのだろう。
『そうねぇ・・・』
まぁ、それは種族差と言う一言で片付けても
良いんだけど・・・
今この子が欲しい答えはきっと違う。
それに私自身もちょっと気づいたことがある。
夜の地上よりダンジョンの中の方が明るいと
いつも感じていたことに。
私も知らず知らずダンジョンの魔力を
灯火代わりにしているのだろうか?
ひょっとすると・・・・
私にも見えるのかも?
感じる魔力を見てみようとぐっと目を凝らして・・・
はぁ~、やめやめっ
ため息交じりに試そうとしていた行為を中断した。
見えたからと言って当たり前に魔力を感じられる
自分にとっては別に何かが変わるわけでもない。
それでも、もし見えてしまえばきっと
どうしようもなく気を取られてしまう。
今、自らの卵を保護している立場として
他ごとに夢中になっている場合じゃない。
『例えば・・・』
『そうね、例えばもっと密度の濃い魔力なら
見えたりしないかしら?』
先ほどのアイルの問いの答えにはなっていなかったが
土竜は一つの提案をしてみせた。
「濃い・・・?」
『そう・・・』
『私が軽くこの辺の魔力を圧縮してみせるから』
『それなら見やすいんじゃないかしら?』
その提案にぱぁっと顔を明るくした
アイルだったが産卵を終えてげっそりと
蛇の様に痩せ細った土竜の身体が目に入った。
『この辺の魔力をただ圧縮するだけだから
何の負担にもならないわよ』
何かを言う前に言いたいことが表情に現れていた
アイルに土竜は破顔した。
『ただ・・・』
『覚えておきなさい』
『いい?高濃度の魔力ってのは』
『ただそれだけで、そこに在るだけで
全ての生命を脅かす毒ともなり得るものなのよ』
アイルとマグを見てみればモンショの魔力が
薄い膜の防壁となってその全身を保護している。
大事な家族が魔力に侵されない様に、
であろうが果たしてどの程度の魔力まで
耐えられるものなのかは土竜にも読めない。
まぁ、もし貫通しそうなら
すぐにやめましょうか・・・
土竜は鼻先に魔力の渦を創りだすと周囲の魔力が
吸い込まれ始めた。
魔力漂うダンジョンの中でもそこには異質なほどに
圧縮された高濃度の魔力の球状の渦が現れた。
・・・あら?
圧縮した魔力が防御壁を貫通しないか
その動作の中でも注意深くアイルとマグを
見守っていた土竜はマグが目を輝かせて
その渦を見つめていることに気が付いた。
ふ~ん?
この子には見えているみたいね・・・
一方、アイルの方を見ると目をきつく閉じ、
渦から目を背ける様にしている。
「眩しい・・・」
あれ?貫通しちゃったかな?
と一瞬慌てたがアイルのその呟きに土竜は
満足そうに微笑むと魔力の圧縮を止めた。
暗闇の中に急に現れた目のくらむ光に
慣れ始めた所でアイルは恐る恐ると目を開いた。
「わぁ~~~!!」
まるで太陽の様に煌々とダンジョン内を明るく
照らす光球にアイルからは感嘆の声が漏れた。
「綺麗・・・」
『ふふっ・・・』
『二人ともしっかり魔力が見えているみたいね』
「すごいです!!土竜さん・・・え?」
『これが明るく見えるんだ?』
『私には何も見えないけれど・・・』
勿論、そこに高濃度の魔力が渦巻いているのは解る。
だがそれは土竜の眼には何も写さなかった。




