14.血統
『いや、そんなに見られてもね・・・』
産卵を始めようとする土竜を興味津々に見つめる
3人と2匹に土竜は困惑の声を上げた。
『いや、物珍しくてな』
「わ、わっ、ごめんなさい!」
その抗議の声を意にも返さないモンショと違い、
アイルはその気持ちを察した様に謝罪すると
慌てて顔を背けた。
『まぁ、別に良いけど・・・』
『危ないから近づいちゃダメよ?』
土竜はため息混じりに産卵場所を決めると
産卵を始めた。
卵がマグマに産み落とされる度に起こる
小規模な水蒸気爆発にアイルはわかっていても
心配を口にした。
「だ、大丈夫なのかな・・・」
遠巻きにハラハラと心配そうにこちらを見守る
アイルの姿に気が付いた土竜のためにその代わりに
モンショは安心させる様にその頭を撫でた。
土竜は全部で3つの卵を産み終えた。
『どのくらいで孵化するものなのだ?』
『そうね・・・』
『大体、十数年かかるかしら』
随分と長い。
『そんなにも長い間、この卵を守り続けるのか?』
『私たちには一瞬だけどね』
なるほど。
長命種の竜属ともなれば時間感覚が違うのは当然の事か。
まぁ、自分も他人の事を言えたものでは無いのだが。
『ただ今回はそんなにかからないと思う』
『・・・思わぬ副産物ね』
見れば魔力渦巻くダンジョン内に産み落とされたことで
ダンジョン内の魔力が卵に吸収されているのが解る。
その魔力は卵内の細胞分裂を加速させている事だろう。
本来の溶岩地帯で産卵を終えれば、その卵を狙って
直ぐにやってくるはずの火竜たちもいない。
卵を狙う外敵も無く、孵化までの時間も短いとくれば
理想の産卵場所とも言えそうだが・・・
外敵がいないと言うことは裏を返せば
土竜の食べ物もないという事だ。
卵を守り続ける間、それを狙う火竜たちは母竜の
餌とも言えた。
『まぁ、ダンジョンで狩りでもするよ』
『入り口は出かけてる間は埋めといても良いし』
『まぁ、そもそも灼熱のマグマから卵を取り出せる
種族なんてそれこそ火竜くらいなんだけど・・・』
『その必要は無い』
『お前の食事はワシらで用意しよう』
モンショは心配そうなアイルの肩に手を置いた。
『この子たちとしばらくはここに通う必要があるのでな』
えっ?と疑問の声が土竜から発せられる前に
その答えを寄越したモンショに
『至れり尽くせりね・・・』
『・・・ついでだ』
言い訳するかのように呟くモンショに
代わりに土竜からは心からの礼の言葉が発せられた。
『ではこれからワシの魔法を解く』
『ワシが傍に在る』
『恐れることは何もない』
ダンジョンの暗闇は通常であれば目が慣れたら
うすぼんやりとでも見える様な、そんな生易しい
ものでは無い。完全な闇だ。
次の日になってアイルとマグを連れ立って
またダンジョンを訪れていた。
かつての帝国の術師たちはその完全な漆黒の世界に
こぞって身を置いた。当たり前に扱うその魔法の
根源をその目にしようと必死だった。
「う・・・」
怖い。
真っ暗で本当に何も見えない。
思わず反射的にその手に抱くマグを
守る様に抱きしめていた。
それに安心しているのか、ひょっとしたら
おねむなだけかも知れないがマグが
その暗闇に泣き出すことは無かった。
アイルは祖父の頼もしい言葉があっても
尚、少しの恐怖の色を表情に浮かべていた。
まぁ、初めはほんの少しの時間から
少しづつ慣れていけばよい・・・
帝国の術師ですら、才能を持つものでさえ
魔力が見えるようになるまでは数年の時を
要するのだ。
その中で何人もの才能ある術師が闇の中で
正気を保てず狂っていったことか・・・
そしてその漆黒の世界の住人たちは
迷い込んだ盲目の羊を見逃してくれるほど
甘くは無い。
物陰から姿を現した魔物たちを孫たちに
気づかせぬように闇を操作してその首を
音もなく刎ねて異空間に引きずり込んだ。
これも土竜への手土産となるだろう。
まぁ、あの巨体だ。
これだけでは全く足りぬであろうから
後で孫たちを土竜に預けて大物を狩りに
行くとするか・・・
あそこは溶岩のおかげで多少灯もあるから
少しは一息つけるだろう。
これからのことを考えていると
アイルの腕の中にあるマグと目が合った。
・・・?
気のせいかと思ったが現れる魔物たちに
対処し、音も無く動き回るモンショを
ずっと興味深そうに目で追い続けている。
そういえばマグはどうしようもない程の
暗闇を、視覚を遮断されたことに対する恐怖を
全く見せていない。
まさか・・・
確かめる様にモンショは魔力を操り
マグの好きなわんわん―――エスとビーの姿を
魔力で創造しその魔力の流れの中に走らせた。
途端に「わんわんっ!」と喜んでそれを目で追い
手を伸ばす孫の姿にモンショは震えた。
いや、こいつ天才か?
・・・まぁ、それもそうか。
むしろ当然のこととも言える。
なんせこのワシの直系なのだからな。
思わず抱き上げてさすが我が孫と
褒め倒したくなったがぐっと堪えた。
もう一人の血の繋がらない孫が暗闇の中で
喜ぶマグの姿に余計に混乱を深くし、
恐怖に支配されている様子が見えたからだ。
ふむ。
そろそろ頃合いか。
『暗闇は怖かろう?』
『本能的な恐怖心はその中に存在しない敵を見出す』
『仕方のないことなのだ』
急に祖父から声をかけられてビクっとしたアイルは
『さて今日はこれくらいにしておくか』
「あ・・・」
急に視界が開けて、自分でも思っていなかった程に
全身に入っていた力が抜けるのを感じとった。




