13.忘却
『ではその使い方だ』
魔力そのものについては教えることは出来ない。
だがその使い方、つまり魔法は教えることはできる。
400年の間、基礎研究の一環として魔力を
研究してきたが未だそれが何かは解らない。
かつての帝国でもその議論は尽きなかったらしい。
魔法を生業とする魔術師や呪術師は魔力の
その色彩の明度や彩度にその意義を見たり、
あるいはその単色のみに注目したり
またはその影や流れ方に価値を見出した。
もちろん結論が出ることは無かった。
どんなに有力な理論でも結局は
その理屈を証明をすることが出来なかった。
例えばモンショが帝国で台頭するはるか前には
魔力の赤単色に執着した炎の魔法を
得意とする魔女の一派があった。
その強大な炎の魔法は当時の帝国の
主力としてもてはやされ、その理論は
帝国に広く認められたらしい。
もっと鮮やかな赤を!!
とその魔法が強大にそして高熱になるにつれ、
皮肉にもその灼熱の炎は黄色となっていき、
ついには色を失うと終いに対極たる青色へと
変化した。
その一派は自らの理論の崩壊に瓦解し、
むしろその魔法の力を弱めていった。
魔法に携わる者は修行の果てに自らの力で
またはその師の力を借りてこの世界から
魔力を感じ取った。
それをどう解釈するかで得意とする魔法や
行使できる魔法が決まる。
それがその者自身の言わば哲学として
その魔法を振るうための根となった。
それ故にそのうちその議論をすることは無くなり
むしろタブー視されることになった。
魔力をどう思うかについて孫たちに
自分の考えを押し付けるつもりは無い。
それは創造力を、可能性を潰す行為だからだ。
『まずはワシのすることを』
『よく見ておくことだ』
一瞬で土竜の産卵場所たる溶岩地帯を
創る事もできるがモンショはゆっくりと
丁寧にその魔力を行使し始めた。
指先で軽く溶岩地帯を大地にけがくように
指し示しながら自らの魔力を放った。
規則性を持ってダンジョンを流れていた
魔力はその放たれたモンショの魔力に
追従する様にその流れの向きを変えた。
魔力の無い地上では己自身の魔力のみで
全てを行うが周囲に魔力のある環境では
この指向性を操作するだけの方法が容易く、
何より自身の魔力の燃費が良い。
そしてこの方法は魔力を使役し、魔法を行使する
ためのイメージが解り易いだろう。
モンショはその出来上がったその魔力の流れに
大地を溶かすほどの高熱のイメージを乗せた。
それはまるで激流の河川に一滴のインクを
垂らすような行為であったが、その僅かな
濁りを乗せたその魔力はそれに追従する
ダンジョンの魔力とともに激流となっていた
その性質を変化させ、濁流となると
大地をその高熱で溶かし、そこに溶岩地帯を
創りあげた。
『魔法とは創造する力だ』
アイルはゆっくりと祖父が魔法を行使する姿に
目をぱちくりとさせた。
私の知っている魔法と全然違う!!
アイルの知っている魔法は、今この世界の
主軸となっている魔法だ。
それは詠唱によって行使される。
「炎よ!」「水よ!」とその自身の持つ魔力の
性質を術者の望むとおりに変化させ、
「矢となり―――」といった形でその変化した
魔力をそのイメージで放つものだ。
それは次第にテンプレとなり、この魔法は
こう詠唱すると言ったルールがいつの間にか
当たり前となっていた。
そもそも魔力が視えるなんて聞いたことも無いし
見える訳なんて本当は無い。
だから詠唱することでその見えない何かを
使役しようとするのだ。
代々、魔法を得意とするディーエル家には
その技術の存在を僅かに後世に伝えていた。
ただその想像を魔力に乗せるだけで行使する
忘れさられたその技術は・・・
「古代魔法・・・」
アイルのつぶやきにモンショはデジャヴを覚えた。
『・・・?』
ああ・・・
確か前にも言われたことがあったな・・・
あれはいつだったか・・・?
―――!!
『あ!!』
ここしばらく考えるのはアイルとマグの事のみで
すっかり忘れていたが捕えた賊どもは
あれから異空間にその影と共にほったらかしだ。
・・・
まぁ優先順位を考えるとすれば
今はアイルとマグの健やかな成長であって
起こってしまった過去のことなどでは決して無い。
確かに一族が襲われた因果とその黒幕は
気になるところだがその対応に着手するのは
孫たちの一人立ちを見送ってからでも構わぬだろう。
それにその一族を滅ぼしたその業の報いとして
その永遠のように続く責め苦は長すぎるのか
短すぎるのかの判断をすることは
誰にもできないだろう。
まぁ、思い出したからにはしばらくはこの事を
頭の片隅にでも残しておくとしようか・・・
不意に何かを思い出したかのように声を上げる
祖父の姿にアイルはその次の言葉を待った。
が、その後に言葉が続くことは無かった。




