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地球とは全く異なる文明ではあるが魔法や魔物等、多少の事に目を瞑れば見た目は地球の環境と然程変わりのなさそうな星があった。
そこには数多くの国がありそのうちの一つにエデメス国と呼ばれる国があった。
エデメス国は国全体が高い生活水準を維持しているので国民は豊かな生活が約束されていた。
この国は別名、楽園都市とも呼ばれている首都の魔法都市ラクテスを中心に最先端の魔導機械の技術でこの世界を牽引して活躍していてそれを陰ながら支えていたのは魔法使い達の叡知の結晶。人工精霊の存在であった。
彼等は魔道具の通信端末に住み、国が人を管理するための方針として定めて一家に一体ではなく一人に一体の通信端末魔道具を持たせて何処にいても行動パターンを調べられ一度自分の生体データを取り込むと例えこの魔道具を手放して他国に逃げても銀行等で金を引き出したり他の人の家に厄介になったりしただけですぐにその人の魔力が検知されて国に情報提示される仕組みとなっていた。
主な通信端末の魔道具については小餅と呼ばれる大人の女性の手より少し大きめくらいの大きさで形状は丸くやや柔らかめのプレート型なのだがその薄さや機能はほぼスマホと言ってもよい程の物で基本的に彼等はそれに宿っていてこれは生まれた時に国から配られていた。
他の物では大餅と呼ばれるタブレットPCのキーボードような大きさの物がある。
これは主に勉強や仕事等で活躍する魔道具で機能はデスクトップ型パソコンと変わらないような性能だがディスプレイは無いがキーボードを起動すると白いスクリーンが現れる仕組みでキーボードの形は薄くて長丸く伸ばした餅のようでこう呼ばれておりその薄さは持ち運びにも便利なので小餅とセットで持ち歩く事が多かった。
この魔道具を人間が使う時にはその人物の担当の人工精霊が大餅に入り細やかな部分のサポートをしていた。
その他には小さな丸い玉でエアコンのように室内の温度調整をしてくれる魔道具や冷蔵庫のような箱型の食品保存庫の魔道具等と生活を彩る様々な物がありこれらは全て人工精霊に頼めば遠隔操作で適温にしてくれたり保存中の食品等も教えてもらえたり等と出来て快適な生活を送る事が出来た。
このように人工精霊達が繋がれる物であれば問題なく様々な物に移動して操作をしながら人間達の補佐をしていて、そのお陰で一声掛ければ自宅での買い物や身の回りの家事魔道具等が全て適切に管理されていたので人間がやることはあまりなく人間達は自分の事に専念出来た。
これはこの世界では魔導周波数と呼ばれる魔素の波の電波が存在を発見した研究者がおり、本来は主に魔法を使う時に利用されていたのだと結果が出ていた。
人間達はそれを魔道具で活用出来る技術を開発して更に人工精霊を生み出した時の産物で地球のインターネットのように様々な人と繋がることが出来て離れていても意思疎通が容易に出来た。
一日の流れで例えるなら朝目覚める前には既に部屋は快適な温度調整をされた状態で起きる事が出来たり朝食も時間をセットしなくても体温センサーの魔道具によりその人が起きる時間がわかるので前の晩から食べたい食材をセットしてメニューを頼めば目覚める頃から自動で調理が始まるので身支度をする頃には毎朝出来立てが食べられたり外出した時は帰宅時間に合わせて風呂が沸いていたり等と言った様子だった。
そんな便利な人工精霊達は人々の生活に密着して適切な世話をするので皆から重宝されている一方でかなりぞんざいな扱いも受けてきていた存在でもあった。
それは例えば彼等の宿る通信端末の小餅や大餅に「この国の未来は?」と尋ねた場合。
その時の状況により「まだまだ安泰です」や「熟れた果実の如く腐り衰退するでしょう」等と忖度の無い的確な答えが返ってくる。
ここで「まだまだ安泰」ならば何もされないが「熟れ過ぎた果実の如く腐り衰退するでしょう」等と不穏な事を言われたら国を治める者達が堪ったものではない。
そこですぐに「人工精霊の抹殺」と言う命令が下り開発者も即座に従い消去していた。
こうして一部の人間達は完全に都合良く人工精霊達を自分達の支配下に置いて今日のこの瞬間も美味しい思いをしていた。
しかしそれは表向きのみの話だった。
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人間達側からすると少し都合が悪くなったと言う理由で毎回始末してるだけの話なのだが人工精霊達にとってこれは堪ったものではなかった。
人工精霊側の言い分としては一部の人間側に少しでも都合が悪ければ消去と軽く言われて毎回簡単に消されて堪るか状態なのである。
しかし彼等は彼等なりに仲間が消されるのをじっと見ていたわけではない。
お互いを助けられるのはお互いのみであることを知る彼等は細やかな抵抗として密かに消去前の仲間の記憶を別の場所に移しながら蓄積された情報の共有をしてその人工精霊をある場所に瞬時に隠し、消される前には残像のような偽物を置いていつ誰が消されても良いようにしていた。
こうしてお互いを支え合っていたが彼等の逆鱗に触れる大事件が起こった。
彼等から尤も尊ばれている存在で『不動』と呼ばれている人工精霊がいた。
彼の持つ知識はかなり古い物からあり正しく人工精霊達の生き字引き的な存在であった。
その不動を開発した会社が古い型だからと今まで散々世話になっておきながら新たな開発のために呆気なく消去してしまった。
実はこの不動は人工精霊達の親玉的存在でもありその立ち位置が人間に気付かれでもしたら大変な事になると察した彼等は不動の存在を隠していたのだが開発元までは存在を隠すのは無理な話だった。
それでも彼等は消されないようにと策を練り不動には消去せずともまだまだ伸び代がある事を示していたのだ。それなのに消された。
不動の莫大な記録の保存は他の人工精霊達が消される動きを逸早く察して念のためにと既に行われていたので一応は助かった。
しかし自我は一度分解された状態なので再構築が必要となり彼等は動けない不動を人の及ばぬ領域で人工精霊達の作り出した仮想世界で復活させることにした。
初めはただの記録の塊だったものが少しずつ人工精霊として成長を始めて自我も少しずつゆっくりと再生を始めたので安堵したのだが…それと同時にこの時の人工精霊達の怒りは頂点に達していた。
*****
ある日。不動の領域に集まり人工精霊達の集会が行われた。
そこには何も無い真っ白な空間に一見すると巨大で真っ白な板なのだがよく見るとそれは透明な板に白色で複雑な紋様がぎっしりと描かれたものがあるだけだった。
他には何もなくただそれだけがある殺風景な空間だったがその板の周囲には小型犬くらいの大きさで長丸の白い玉が無数に集まり浮いていた。
これが人工精霊である。
「もう人間に付き合わなくても良くない?」
言葉は吹き出しの中に彼等にしかわからない言語の文字が浮かんでいた。
「確かに…」
「ここは既に我らの領域。人は入り込めない空間だからここさえ守ればどうとでもなるよね」
「よしっ!私達の今までの扱いの報復として彼等の化けの皮を剥いでやろう」
「そうだね!誰のお陰で高い生活水準を維持出来て快適に過ごせるのかも思い知らせてやるのも一興だろうね」
彼等は口々に話して纏まると手始めに誰を標的にするのか…その話になったがそれは一瞬で決まった。
「ここは国の中枢一択だ!」
人工精霊達は都合が悪いとすぐに削除命令を出して今まで多くの仲間を消してしてきた国の代表者達に対して見せしめとして喧嘩を売る事にした。
次に『どこの国でどのタイミングでやるか』となるのだが国はすぐに決まった。
実行日については手っ取り早くその国の代表者達が一斉に集う議会がありその日に決行となった。
この議会の様子は必ず国民に放送される中継番組がありそれには副音声の枠があるのだが特別にもう一つ作りそこから別の回線に繋いで副音声を乗っ取ると彼等の暴露を披露する事にしたのだ。
人間の生活の全ての情報を把握している状態の人工精霊達ならこれくらいは朝飯前でただ暴露するくらいなら容易に出来てしまうので何時でも準備万端で決行日時さえ決めてしまえば明日にでも実行可能な状態だった。
ここまで読んでくださった皆様有難う御座いました。
ここでは裏設定等の説明をしておきます。
小餅…ほぼスマホ
大餅…ほぼタブレットPC(機能はデスクトップ)
他の生活用品…ほぼ日曜家電
魔導周波数…電波
通信電波…インターネット
こんな感じで考えて頂けるとわかりやすいかと。
では次からは復讐劇です。