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9話 ~ふたりの帰途~

 


 仕事が上手くいった後の帰途というのは、得も言われぬ満足感に包まれるものだ。しかも、それを包み込むように大きな美しい夕日が空を染めているとなれば、なおさらである。


 橙に染まる空の下、閑静な高級住宅街の並木道を歩く二人組の姿があった。


 ひとりは、金色の髪をして甘く整った美貌を持つポーランド出身の『するめ・クルシェフスキ』。


 その隣には、巨体丸坊主でやや粗暴に見える顔をしている『千光苦楽』がいる。互いに言葉は少ないが、歩調は自然と合っていた。


 街路樹の影がゆっくりと長く伸び、石畳に揺れる光と影が、ふたりの靴音に合わせて静かに揺れている。


 あたりには犬の散歩をする老婦人の姿や、風鈴の音を含んだ夕風が通り過ぎるばかりで、穏やかな空気が流れていた。


「ねぇ、スルメちゃん」


「なに?」


「俺たち、探索者として、前よりも成長してると思うんだけど……そう思わない?」


 巨体の丸坊主男が、見た目に似合わぬ優しい声でそう訊ねた。


「思う」


 夕暮れの色を少しだけ吸い込んだような、金色の髪を揺らしながら、スルメは短くもはっきりと頷いた。


「やっぱりレベルアップってあるよなぁ……」


 独り言のように呟く苦楽の声に、スルメはまた小さく頷いた。


 レベルアップ――ゲームの中でよく聞くその言葉。だが実際、魔物を倒したことで身体に明らかな変化を感じる者は少なくない。肉体が以前よりもはるかに強靭になったと、確信をもって語る探索者もいる。


 科学者たちはその存在を頑なに否定し、同業者の中にも鼻で笑う者は多い。けれど、今日の自分たちは確かに、以前の自分とは違っていた。


 ふたりの探索ポリシーは「いのちだいじに」。無茶はしない。けれど今日は、過去最高の収穫だった。ダンジョン肉の売上は三十万円に達し、スルメと分けても十分すぎる収益だ。


「慢心は駄目」


「分かってるよ」


 これは命をベットして得た報酬だ。いつまで続くかも分からない、儚い栄光に過ぎない。それでも――頬が緩むのを、苦楽は止められなかった。


 やがて、見慣れた並木の角を曲がり、自宅の灯が見えはじめたその時だった。スルメが、小さく「あ」と声を上げた。


 導かれるようにして視線を向けると、道の真ん中に、腕を組んで仁王立ちする男のシルエットが浮かび上がっていた。


「パパだ」


「うわぁ……」


 スルメの一言で、ほころんでいた苦楽の表情が見る間に曇った。


「なんとか会わずにすむ方法は……ないかな」


「それは無理」


「……だよねぇ」


 肩を落としながら、嫌々ながらも前へと歩き出すふたり。その後ろ姿を、夕暮れの光がそっと照らし、長く伸びた影を美しく滲ませていた。


 憂鬱な溜息すらも、どこか優美に見える黄昏の帰り道だった。





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