62話 ~LAST~
「おーい!苦楽ー!スルメー!」
公園の入り口側から、杖をついた男が笑いながら近づいてくる。
「もう退院したんですか?」
苦楽が駆け寄る。
「まだ病院にリハビリ通ってるけどな。ま、一応は退院ってやつだ」
「良かったですね」
スルメが目を丸くして言った。
「坂本さんの私服、初めて見ました……なんだか違う人みたい」
「だろ? 昔はディスコのスターだったんだぜ」
「ディスコ……?」
話を聞きながら、ふたりは思わず笑ってしまう。坂本は、いつも通りだった。
「お前ら、見舞いに来てくれたんだろ? 看護師の吉田さんが言ってたぜ。お前らみたいな特徴あるやつ、そうそういねぇってよ」
「たまたま近くまで行ったので……」
「なんだ、俺の見舞いはついでか!」
「すいません……」
「冗談だよ、嬉しかったぜ」
意識不明だったという坂本は、今は元気に笑っていた。
「奇跡だってさ。すぐ目が覚めて、すぐ退院。……お前らが来てくれてすぐだったってよ」
「神の使い、だなんて……」
「スルメはともかく、苦楽は絶対違うって笑っといた」
「ひどいな」
苦楽は肩をすくめて笑う。
「また警備に戻るつもりだ。ここは人が多くて、にぎやかだろ? 好きなんだ、こういう場所」
「大丈夫なんですか?」
「カミさんには怒られたけどな。今度は背後にも気をつけるさ。一秒ごとに振り返る!」
「それは振り返りすぎです」
笑い声が、公園の青空に溶けていった。
「本当にありがとうな。俺、協会に顔出してくるからよ」
「みんな喜びますよ」
「……そうだといいけどな」
坂本はゆっくりと歩き出した。その背中を見つめながら、苦楽は思う。奇跡はきっと、良い人の元にやって来る。
「よかった」
「うん……」
ふたりは並んで歩き出す。柔らかな風が、葉の間を揺らしていた。
命を懸ける職業、探索者――それでも彼らは、この場所にまた戻ってくるだろう。
それが、彼らの日常だから。
「苦楽」
「どうしたの?」
「喉乾いた」
「何飲みたい?」
「わかんない」
「オッケー、それじゃああの自販機で何種類か買って来るから、ここで待っててよ」
「ありがと………」
走り出す苦楽と、見守るスルメ。
ふたりは気が付いているのだろうか。
今この瞬間、きっと幸せだ。
終わり。
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