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61話

 

「スルメさーん!苦楽さーん!」


 柔らかい風が吹き抜ける公園。その緑の中から、少年の明るい声が響いた。


「おー、虎之助。今日も来たか」


「はい! 頑張って練習したので、その成果を聞いてほしくて」


「分かった、それじゃあ、いつものベンチに行こうか」


「はい!」


 マッシュルームカットに大きな眼鏡。背中にはギター、隣には少し大きくなったゴールデンレトリバー。虎之助は今日もまっすぐな瞳をしていた。


 スルメが「音楽の才能がある」と見抜いた少年は、すぐに親にギターをねだり、そして真剣に練習を始めた。


「最近は、前よりも指が痛くなくなってきました」


「それは良かった」


「それでは聞いてください」


 ギターを構える手がまだ少しぎこちないが、音が鳴った瞬間、公園の空気が変わった。


 演奏されたのは、あいみょんの『マリーゴールド』。苦楽のリクエストだった。


(いいじゃないか……先週よりずっといい)


 メロディが柔らかく風に乗って、公園を歩く人々の足を止めさせる。犬が耳を立て、木々の間に鳥がさえずり、穏やかで、優しい時間が流れていた。


「ご清聴ありがとうございました!」


 深々と頭を下げる少年に、自然と拍手が湧いた。それはただ演奏がうまかったからではない。まっすぐで、ひたむきな音が、人々の心に届いたからだ。


「よし、次は『ドライフラワー』だな」


「えぇ!?」


「スルメもそれでいい?」


「うん。あの曲好き」


「じゃあ決定。来週までに頼むぞ」


「ま、まだマリーゴールドも完璧じゃないのに……!」


「じゃあ、来週は二曲とも弾いてもらおうか」


「ええぇ………」


 戸惑いながらも、虎之助は素直に頷いた。


「分かりました、頑張ってみます」


 その言葉に、苦楽は優しく笑って肩を叩いた。


「その次はサカナクションも弾いてほしい。草刈さんって女性が格好いいんだぞ」


「えぇぇぇ!? それってベーシストのかたじゃないですか、ギターじゃなくてベースですよ!」


「ベースもギターみたいなもんだろ」


「全然違いますよー……」


「大丈夫、君ならきっとできる。ベースは俺からプレゼントしてやる」


「本当ですか!? それは……ちょっと嬉しいです」


 明るくて、素直で、どこか懐かしい――この少年なら、きっとどんな難曲も、時間をかけて弾きこなすだろう。


 才能はある。そして、支えてくれる人たちがいる。それは何よりも心強い。





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