60話
探索者協会の受付嬢である菅野愛理は、クーラーボックスの中からダンジョン肉のひとつを取り出し、目を細めてにっこりと笑った。
「おーさすがですね、おふたりさん。今日もクーラーボックス、パンパンじゃないですか」
「売るとはまだ言ってないぞ」
苦楽が渋い顔をしながら返す。
「何言ってるんですか。一階層で取れたダンジョン肉は全部こちらに売ってくれるって、約束じゃないですか」
「しかしなぁ………」
「問題ないですよね、スルメさん?」
「うん………」
「ほら、スルメさんが頷いてますよ。これで文句はないですよね、苦楽さん?」
悪戯っぽく片眉を上げながら、苦楽に笑いかける愛理。その表情は明るく、声にも張りがある。
「仕方がないか………」
苦楽はため息混じりに言い、視線を落とす。あっという間に引き取られていくダンジョン肉に、まだ少し未練が残っているようだった。
(それにしても……上機嫌だ)
かつて、公園のベンチで「この仕事を辞めるかも」とこぼした彼女の姿は、今やすっかり過去のものになっていた。
スルメから『柴犬喫茶こげぱん』の三十分無料券をもらったのがきっかけで、足繁く通うようになり――そして、店長の柴田健太と交際を始めたらしい。
「ありがとうございましたー!」
明るく弾んだ声を背に、ふたりは協会をあとにする。クーラーボックスは少し軽くなったが、心はなぜか軽やかだった。
「欲張りすぎちゃ駄目」
「そうだった、つい目の前のお金につられて………」
「お世話になってるんだから」
「そうだね………」
相変わらずダンジョン肉の価格は高騰していて、今日も二人で百万円を超える収益があったはずだ。
「私の取り分は動物の保護団体に………」
「うん、分かってるよ」
会話を交わしながら、自動ドアの向こうへと歩みを進める。外の光が、晴天を告げていた。
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