58話
「だったら言えよ、何が目的で今回の事件を起こしたんだ。どうせくだらない理由だろ?」
「んだと?!」
明らかな挑発に、清水三郎は血走った目を見開いた。その眼は、怒りと狂気の入り混じり、わずかに震えていた。
「多分、ギャンブルかなんかで作った借金で首が回らなかったんだ。だから俺への復讐のついでに、ダンジョン肉を盗んだ。どうせそんなとこだろ?」
「はっ!」
清水は鼻で笑った。乾いた空気を裂くような音だった。
「薄っぺらい男だな、お前は。安っぽいテレビドラマをそのまんまコピーしてきただけの馬鹿、その程度しか想像できないのがお前なんだよ。さぞかし平和に、幸せに生きてきたんだろうな――くだらねぇ」
「不幸自慢か?」
「ふっざけんな!テメェに分かるか? 毎日毎日、父親に殴られる子供の恐怖が!え!?どこにも逃げ場なんて無い狭い家でな!」
清水の声が爆ぜる。周囲の空気が濁るような錯覚。
「殴られるためだけに、俺は生きてきた。学校にも通えずにな!痛みを避けるための立ち回りばっか考えて、小さく丸まるだけの毎日だ!」
苦楽は、狂気の迫力を前に言葉を失っていた。
「母親はな、俺を捨てて逃げたよ。何も言わずにな。父親が俺を殴る理由増やしやがって。何が母親だ、ふざけんじゃねぇ!」
獲物に食らいついた肉食獣のようだった。脂ぎった肌に浮かぶ汗、あまりにも血走った眼球が赤く染まっている。
「こんな環境で育ったせいで、俺はまともに漢字も書けねぇ大人になった。不幸自慢だ? ――お前には言われたくねぇ。顔見りゃあ分かるぜ、生まれた時から、何の不自由も無く生きてきたことはな。幼馴染と一緒に、探索者として稼ぎまくって……そんなお前が知ったような口聞いてんじゃねぇ!」
窓の外には、公園の緑が広がっていた。風に枝がそよぎ、鳥たちが歌っている。
「……確かに、お前にはムカついてたよ。それは事実だ。俺を殴った時の、お前の目――弱者を見る目が忘れられなかった。でもな………」
清水は少しだけ笑った。
「そんなもんはついでだ、ついで………」
公園の上空を、小さな鳥が美しい声をあげながら弧を描いて飛んでいる。
「警備員の坂本、あいつだ。俺はあいつを殺したかった」
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