55話
朝の公園のベンチに並んで座る二人の背中に、やわらかな日差しが降り注いでいた。澄み渡る青空の下、湿り気を帯びた芝生の匂いが優しく香る。
「正直言って疲れました。普段の仕事だけでいっぱいいっぱいだというのに、強盗傷害事件が起きて。おまけにマスコミは探索者協会の警備体制の問題を指摘してくるしで、てんてこ舞いですよ」
ベンチの端で、ウサギ耳カチューシャを付けた菅野愛理が、缶コーヒーを手にぼやく。軽く溜息をついた彼女の声には、自暴自棄の響きさえあった。
「そうですよね………」
「他にも、友達が警察に疑われているから防犯カメラの映像をよこせ、そんなことを言ってくる人たちもいて………」
「そ、それは………」
心当たりがあった。スルメたちのことだ。彼らが自分の無実を信じて、どれだけ動いてくれていたか──苦楽は痛いほど知っていた。
「すいませんでした」
苦楽は大きな体を折って、深く頭を下げた。愛理はその様子に目を丸くしたが、やがてふっと笑った。
「冗談です。友達想い、いいじゃないですか。『仲良きことは美しきかな』って、武者小路実篤も言っていますからね。忙しくても、それを思うことで、実は救われていたんです」
「はぁ………」
苦楽はぼんやりとうなずいた。
「私はこれから一人寂しく有給を満喫しますよ」
「有給ですか、いいですね」
「結局、ユーチューブを見るだけで終わってしまいそうですけどね」
半分ほどしか食べられていない、小さなお弁当箱の中に、もうひとつため息が落ちた。やはり彼女は相当に疲れているらしい。
「どんな動画を見るんですか?」
「最近はショート動画ばかりですね。良かったものをお気に入りに登録して、後から見たりとか………」
「私は犬の動画が好き」
スルメが控えめな声をあげた。
「へー、どんなのですか?」
苦楽はちょっと驚いた。
朝のスルメはいつもぼんやりしていて、あまり喋らない。それなのに、あまり親しい関係でもない菅野愛理との会話に入って来るとは思わなかった。
「二匹の犬が、小さな声で吼える練習をしているやつ、とか………」
「なんか良さそう、ねえ、見せて」
「分かった」
スルメが取り出したスマホを、ふたりでのぞき込んでいる。
「私がお気に入りに登録したのも見て」
「うん、見たい」
ふたりはキャッキャと笑いながら、動画を見せ合い始めた。その光景に、苦楽は少し目を細める。
悪くないな。
スルメがモデル顔負けの美形であることは周知の事実だが、菅野もまた美形で、毎日のように探索者から声を掛けられている。
そんな二人が、美しい緑の公園で楽しそうにしているのは、実に絵になる光景だった。誰かに描いてもらいたいくらいだ。
「え………」
そんな中、スルメが小さく驚いた声をあげた。
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