50話
室内にいる全員の視線が、スルメに集まった。
窓の外では午後の日差しが傾き始め、床に長い影を落としている。緊張の空気の中で、スルメは小さく喉を鳴らした。
「は、犯人はそのボールペンに苦楽の指紋が付いていると思っていた。だからそれを犯行現場に残したのだと思う……」
声はかすかに震えていたが、言葉の端々に覚悟がにじんでいる。
スルメは人見知りだ。注目されるのがとても苦手で、いつもなら背中を丸めて隅にいるタイプ。けれど、今だけは視線から逃げなかった。目を伏せながらも、最後までしっかりと言い切った。
「ふむ………」
警察キャリアの龍一が腕を組み、顎に手を当てて考え込む。その仕草は歴戦の警察官の凄味があった。
「犯人はボールペンに苦楽の指紋が残っていると思っていた。けれど、それが思い通りにいかなかっただけ……」
「なるほど………ボールペンは細長くて円柱形だから、そもそも指紋を採取するのが難しい。けれど、そのことを一般人は中々知らない」
龍一の言葉に、一同がうなずく。スルメの推理は的を射ていた。
「ここで問題なのは……どうして犯人が、そのボールペンに苦楽の指紋が付いていると思ったのか、ということ」
龍一がゆっくりと首を巡らせ、部屋にいた青年に視線を向ける。
「賢治はどう思う?」
「ぼ、僕ですか?」
突然話を振られた賢治は、目を見開いて声を上ずらせた。だが、しばらく考えた後で、言葉を選ぶようにして答えた。
「犯人は……苦楽がボールペンを使うところを見ていたから。探索者がダンジョンに入るときには、毎回、探索者協会で申請書類を書かないといけない。そのとき、犯人は近くで見ていたんだと思います」
スルメが、静かに、けれどはっきりと頷いた。
「私もそう思う。そして犯人は、苦楽が使った直後のボールペンを盗んだ。そして、それを現場に置いた」
「なるほど………ということはつまり………」
龍一が目を細め、ゆっくりと言葉を継いだ。
「探索者協会にある防犯カメラ。苦楽が申請書類を書いた時の映像を見れば、その後にボールペンを盗んだ犯人が映っているはず」
「そしてそれはつまり、今回の事件の犯人でもあるということか………」
言葉が落ちた瞬間、室内に静寂が戻る。時計の針の音さえ聞こえるような沈黙のなかで、龍一が突如大声をあげた。
「素晴らしい!」
「あ、ありがとうございます………」
外でなく小鳥よりも小さな声でスルメが答えた。
「すごいじゃないかスルメ! 名探偵スルメだ!」
「べ、べつに……」
スルメは褒められた時にいつもする返事を返した。けれど、頬はほんのり赤く染まっていて、うつむいたその表情に、どこか照れくさそうな笑みが浮かんでいた。
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