5話
薄暗闇の洞窟の中、湿った岩肌をかすかに照らすのは、そこに生えるキノコたち。
その中を、巨漢の男が無造作に二本の細い針金を両手に持って歩いていた。
「多分こっちかな………」
千光苦楽の前に立ちはだかるのは三又の分岐路。彼はそのうちの一つを指差すと、歩き出した。彼が今しているのは——
ダウジング。
ダウジングとは、ロッドや振り子などを用い、目には見えない水脈や鉱脈を探し当てる古い技術である。科学的根拠など皆無に等しいが、歴史的には捜索や調査に用いられてきたとされている。
その背後を軽やかな足取りでスルメがついていく。疑う様子など微塵もない。なぜなら、苦楽のダウジングは、実際に驚くほどの成果を挙げてきたからだ。
ダンジョン——それは、入るたびに姿を変える迷宮。壁も床も、記録したはずの地図さえもあてにならない。特に一階層は、東京ドーム三個分もの広さを誇ると言われ、踏破には体力と時間、そしてなにより直感が試される。
そして、当然のように魔物が現れる。地形の不確実さと敵の存在。その両方に対応しなければならない探索者は、まさに命懸けの職業だ。
そんな中で、「最強」と噂される苦楽。彼が評価されるのは、単なる戦闘力だけではない。誰よりも早く深部に到達し、確実に成果を持ち帰る。その再現性の高さこそが、彼の異能たるゆえんだった。
「前方から魔物、恐らく『鮭』。後方からも反応、『鮒』。ナズナ、後方を頼める?」
「うん」
短いやり取りに一切の迷いはなかった。スルは即座に背後へと身構え、苦楽と背中合わせの布陣をとる。
苦楽はポケットから小石を一つ取り出すと、接近してくる魔物に目を細める。岩陰から飛び出してきた、鮭に似た魚類型の異形。
「……はい、おやすみ」
小さく呟き、親指で小石を弾いた。瞬間、小石は青白い光をまといながら一直線に飛び、魔物の額に吸い込まれるように命中した。
「んご~」
哀れな声をあげた魔物は、その場で昏倒する。その直後、後方でも「ぱしゅっ」という軽い音。振り返らずとも、スルメが任務を果たしたのがわかる。
「ちょっと緊張した?」
「大丈夫」
二人の背後で、魔物の身体が崩れて泡のように崩れ、泡と化す。そしてその泡は宝箱へと変化した。
「両方ともとはラッキーだな」
苦楽が呟く。通常、魔物が宝箱を落とす確率はそれほど高くない。しかし、彼とスルメのペアの場合——なぜか、異常にドロップ率が高かった。
それもまた、彼らが「異常」とされる所以である。
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