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43話

 



 上へと続く狭い階段を、賢治、愛嬌、スルメの順で一列に上がっていく。壁際にはチラシの端がめくれ、蛍光灯の光が少しチカチカしている。


 古びたビル特有の埃っぽい匂いと、自分たちの靴音だけが反響する空間に、自然と言葉は少なくなる。


 そんな静寂の先――。


 右往左往している黒髪の少年がいた。


「すいません、僕たち下の看板を見て来たんですけど、ここって『柴犬喫茶こげぱん』で合ってますよね?」


 賢治の問いかけに、少年は肩を跳ねさせて振り向いた。


「あ、あのっ……! すみません、いま店はご利用できないんです……! 本当に申し訳なくて……!」


 柴犬の顔が大きくプリントされた緑色のエプロンを身につけた少年が、しどろもどろに言い訳を並べ、深々と頭を下げた。


「僕たちは友人を探してここへ来たんです。何かトラブルでも?」


 賢治が一歩前に出て問いかける。


「……ええと、困ったことが起きてまして……」


「困ったこと?」


「はい……でも……詳しいことは、あの………」


「あなたはこのお店の方でいいんですよね?」


「はい、店長をしています柴田 健太といいます」


 店長?


 三人の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。どう見ても中学生くらいにしか見えない。


「困ってるみたいですね。よかったら、僕たちに話してもらえませんか?」


「え!? でも……」


「三人寄れば文殊の知恵、って言いますよ」


 愛嬌が柔らかく微笑むと、少年はついに決意したようにうなずいた。


「……内緒にしてもらえますか?これが外に漏れたら、お店が……」


「もちろん」


 三人が頷くのを確認してから、少年は声を潜めて言った。


「……実は今、店の中にヤクザが居座ってるんです!」


「ヤクザ!?」


 全員が声を揃える。


「そうなんです! いきなり坊主頭の大男が、酒くさいまま入ってきて、チケットも買わずに柴犬たちを触り始めて……!僕、怖くて何も言えなくて……」


 三人は顔を見合わせる。


「それだけじゃなくて、警察の悪口をぶつぶつ言いながら、怪しい薬を酒で流し込んで……!そのままソファで寝ちゃって……ぐーぐーと……!」


「うわぁ……」


 愛嬌が絶句する。ヤクザと言われている者の正体に完全に気が付いていた。


「怪しい薬って胃薬のことだ………」


 スルメの小さな声は悲劇に襲われた少年には届かなかった。


「警察を呼ぶことも考えましたけど、バレたら殺されるかもしれないし、柴犬たちも巻き込まれるかもって……。それに、騒ぎになったら、お客さんももう……僕、もうどうしたらいいのか……」


 少年はとうとうしゃがみ込み、肩を小刻みに震わせた。


 ――と、そのとき。


 店内から「ワンッ!」という柴犬の高い鳴き声とともに、ドスンと何かが落ちる音が聞こえた。






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