41話
「ふむ、どうやら苦楽は喉が渇いているらしいな」
スマホの画面から視線を逸らした賢治が、ポツリと呟く。
「何言ってんの?!」
愛嬌が、ピシリと空気を裂くような声で反応した。
「スルメ君のダウジングによれば、苦楽はいま喫茶店にいるらしいから、コーヒーでも飲んでいるんだろう。落ち着いたらきっと連絡をくれるだろうし、そんなに心配する必要は——」
「何が喫茶店よ!」
愛嬌の声が一段と大きくなった。彼女の拳がテーブルを打つたびに、置いてあった砂糖の小瓶がカタカタと震える。
「どうしてそんなに喧々してるんだよ。看板に“喫茶”って書いてあったじゃないか」
やや早口で弁明する賢治の額には、冷房が効いた室内にもかかわらず、うっすらと汗がにじんでいた。
「ばっかじゃないの!『極楽ぱいぱい喫茶もみゅもみゅ♡♡♡』なんて、そんなのいかがわしいお店に決まってるでしょ!私達が一生懸命あいつの無実を証明してあげようとしているのに、あいつは、全く………!」
愛嬌の声は怒りに震え、テーブルを再び叩く音が室内に響いた。
「落ち着くんだ、別にまだそうと決まったわけじゃない」
「その訳の分からない男同士の友情みたいなのは止めてよ!全然無理だし、余計に腹が立つから!」
「そういうつもりはない。僕は本当に、苦楽はただコーヒーを飲んでるだけだと思ってるんだ。取り調べで警察に詰められたら、喉が渇くのはごく自然な——」
「……あんたねえ、よく考えてみなさいよ。自分が喫茶店をオープンするとして、コーヒーのことをいっぱい勉強して、食器を揃えて、接客の練習して、銀行からお金借りて、人生かけてさ、そのお店の名前を『極楽ぱいぱい喫茶もみゅもみゅ♡♡♡』にする?!ハートマーク三つも付ける?!喫茶店を舐めんじゃないわよ!」
彼女の声は、実家が喫茶店を営む誇りがあった。つばが飛ぶのも気にせずにまくし立てる姿に、賢治は押され視線を泳がせた。
「ま、まあ、それは確かにそうかもしれないけど………」
そのときだった。すっと椅子を引く音がして、隣に座っていた金髪の女性が静かに立ち上がる。
「スルメ、どうしたの?」
愛嬌が一瞬だけ怒りを中断し、彼女に目を向ける。
「……あいつを殴る」
その声は小さかったが、凍るような静けさと強い意志が宿っていた。表情は冷静そのもの。だが、それが逆に恐ろしさを増幅させていた。
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