37話
「さて、それじゃあここまで防犯カメラの映像を見て来て、僕が感じたことを言ってもいいかな」
中川賢治が姿勢を正して言うと、テーブルを挟んだ向かいで、スルメと村上愛嬌が静かに頷いた。
「犯人は二人以上。そして片方は苦楽に顔がそっくりの人物。しかし体格と髪型が違うから、明らかに本人ではない。ここまでは良いね?」
賢治は二人の表情を見渡す。異論はなさそうだったので、少し息を整えて続けた。
「ここからは推測だけど、犯人が顔を隠さなかったのは、苦楽に罪を着せるためだと思われる」
スルメは頷いた。犯人はあまりにも不自然だった。
「探索者協会で強盗事件が起これば、真っ先に疑われるのは、施設の職員か、あるいは探索者だ。あの施設は基本的に許可証を持った者でなければ入れないから、そうでない者には建物の構造が分からない。そんな場所で強盗をすることは難しいはずだ」
「もちろん探索者協会のホームページにも、詳しいことは書かれていないものね」
愛嬌が静かに言い添える。
「そうなれば、防犯カメラに苦楽に似た人物が映っていたら、探索者である苦楽は真っ先に容疑者として疑われる」
「私たちは探索者になる時に、顔写真付きの書類を提出してるから、警察が探すのは簡単」
「犯人はそこまで計算して犯行に及んだのだと思う」
「頭いいわよね、私だったらそこまで考えられない」
「ここからは全く自信がない、ただの想像なんだけど……犯人は苦楽が探索者であることを知っていた。そしてたまたま苦楽と顔がそっくりな人間を見つけた。だから今回の犯行に及んだ」
「なるほど………っていうことは、今回の事件の主犯格は後から脚立を持って来た方だったって事?」
「そうなるね………」
賢治は一呼吸置き、やや納得のいかない顔で答えた。口元に手をやり、記憶をたぐるように考え込む。
「だけど、防犯カメラの映像を見る限りは、どう考えても苦楽に似ている方が主犯格に見えたんだけど」
「そうなんだよな……僕もそこが引っ掛かっているんだ。スルメ君はどう思う?」
一斉に向けられた視線に、スルメは少し肩をすくめた。
「………どっちが主犯格でもいい。問題は、苦楽が犯人じゃないってこと」
その言葉に、しばし部屋に静寂が落ちた
「たしかに、そうね………」
「言われてみれば、確かにその通りだ」
「私たちの推理、警察は信じてくれるかな?もしかしたら苦楽が犯人だってすっかり信じ込んでいるのかも」
「とりあえず言うだけは言ってみるよ」
「賢治のお爺さんは現役の警察官だものね」
「キャリアだから、話くらいは聞いてくれると思うよ。それからどうなるかは分からないけど」
「それに期待するしかないわよね………」
その時、賢治のスマホが鳴った。
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