34話
ここは東京都目黒区自由が丘にある喫茶店『ディオゲネス倶楽部』。
古びたレンガ造りの外壁に控えめな金文字の看板。駅前の喧騒から少し外れた路地裏に佇むその店は、知る人ぞ知る隠れ家のような雰囲気を漂わせていた。
その特別室で、スルメと『村上愛嬌』、そして『中川賢治』の三人は、ノートパソコンに映した事件当日の防犯カメラの映像を見ていた。
画面には、ほとんどずっと薄暗い探索者協会が映っている。上部から俯瞰するようなアングルだ。時おり、警備員の坂本が懐中電灯を手に巡回する姿が捉えられていた。
そして、ある瞬間。
突然、黒い服を着た男が画面の隅から現れ、坂本に背後から近づく。その手には長く細い、バールのような工具が握られていた。
男は迷いなく、坂本の後頭部へ一撃を加えた。
坂本の体はぐらりと揺れ、静かに崩れ落ちていく。動かない。
バールの男はポケットから何かを取り出し、それを口元に当てた。形状からして、トランシーバーのように見える。
しばらくして、もう一人の男が映像に現れる。こちらも黒い服を着ているが、顔には目出し帽をかぶり、手には折りたたんだ脚立を持っていた。
倒れた坂本を見て、目出し帽の男は驚いた様子を見せる。
次の瞬間、彼はバールの男に詰め寄り、激しく身振りを交えながら口論を始める。音声は無いが、そのやり取りは激しく見えた。
バールの男が乱暴に相手の肩を突くと、目出し帽の男はバランスを崩して尻もちをついた。バールの男は倒れた脚立を拾い、防犯カメラの真下に立てる。
そして脚立を上り、こちらを振り返ったその顔は――
千光苦楽に、酷似していた。
次の瞬間、バールが振り上げられ、防犯カメラの映像は暗転する。ノイズすら残さず、完全に映像は途切れた。
沈黙が、特別室に満ちる。
誰も言葉を発せず、ただ黒い画面とにらみ合っていた。
「……ねえ、苦楽は本当にやってないのよね?」
愛嬌がぽつりと呟いた。怯えた目で、スルメと賢治の顔を交互に見つめる。その表情は、幽霊でも見たような困惑に満ちていた。
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