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31話

 


 スルメの心臓がかつてないほど高鳴っている。


 取り調べを受けている千光苦楽を救うため、彼は探索者協会の建物に足を踏み入れた。


 許可のない一般人がここに出入りすることはできない。だからいまスルメはひとりきりだった。


 探索者協会には、いつもの活気とは異なる、重苦しい空気が満ちていた。職員たちもどこかよそよそしく、視線を交わすことすらためらっているようだった。警察官の制服がその場の温度をさらに数度下げている気がする。


 ウサギ耳のカチューシャを付けた受付嬢、菅野愛理は、スルメを見た瞬間から冷ややかな視線を向けていた。


「事件に関することは一切お話しすることが出来ません」


「でも………」


 極度の人見知りであるスルメなので、いつもならすぐに引き下がっていたはずだが、今回だけはそれが出来なかった。


 苦楽と一緒なら………。


「防犯カメラの映像を見せてくれだなんて、職務規定違反にもほどがあります」


「でも………」


「スルメさん、あなたは私を失業させたいんですか?」


 正論だった。だからこそ、何も返せなかった。苦楽を助けるために必要なのだとわかっていても、彼女の言葉が鋭く胸に刺さる。


「でも………」


「現在、意識不明の重体となっている坂本大輔さんは、ここで仕事を始めたばかりで、何も分からず戸惑い、辞めようかと悩んでいる私に明るく声を掛け、励ましてくれました」


 スルメは返す言葉を失った。


 これはただの窃盗事件ではない。血の通った人間が傷つき、命の危機に瀕している。


「最初は何かの間違いだと思いましたが、もし苦楽さんが彼をそんな目に合わせた犯人だとしたら、私は一生許せません」


 菅野愛理の瞳はまっすぐにスルメを射抜いていた。その瞳には、決して崩れない意志が宿っている。


 どれだけ言葉を尽くそうと、この場では何も動かせない。そう思い知らされた。


「他の探索者の邪魔ですので、どうかお帰りください」


 ――絶対に防犯カメラの映像を手に入れる。そう誓ってここへ来たはずだった。


 だが、スルメの手には何も残らなかった。自動ドアが閉まる音が背後から聞こえる。


 公園の豊かな緑の匂いを含んだ強い風が、頬を叩くように吹き付けた。





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