表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/19

3話 ~転落と転機~



『千光苦楽』にとって、人生最悪の時期は高校卒業後に勤めた会社を辞めた時だったかもしれない。


勉強が苦手だった彼は、高校を出るとすぐに都内の建設会社に就職した。自信満々だった。「この会社で成り上がって、いずれは国会議員に立候補する。日本を手中に収めるような金と権力を手に入れる」と本気で考えていた。


しかし現実は、甘くなかった。


体力には絶対の自信があったが、建設業の現場では体力だけでなく、経験と知識が必要だった。


現場では毎日、上司や先輩から怒鳴られ、無力感に打ちひしがれた。さらに労働基準法を無視した長時間労働が日常で、毎日の胃薬が欠かせなかった。


半年ももたずに退職した。


最後の日、ムカつく奴らを全員ボコボコにして辞めたことで多少はスッキリしたが、それでも苦楽にとっては人生最大の挫折だった。


一方で、スルメ・クルシェフスキの人生は順調だった。


彼女は人付き合いが得意ではなかったため大学には進学しなかったが、個人投資家として着実に成果を上げていた。


きっかけは小学生の誕生日。彼女は突拍子もなく「ビットコインが欲しい」と両親にねだった。金融教育になると考えた両親は、百万円分のビットコインを買い与えた。


その後のビットコイン高騰は説明するまでもないが、彼女はその利益を元手に株式投資を始め、多少の失敗を重ねながらも、億を優に超える利益を稼ぎ続けている。


千光苦楽が彼女の「お世話係」になったのは、そんな時だった。


当時、身長198cm、体重113kgの巨漢であるにもかかわらず、苦楽のメンタルは意外と繊細で、「もう二度と就職なんてできないかもしれない」と毎日ふらふら過ごしていた。


そんな彼に、スルメが「部屋の掃除や買い物を手伝ってくれないか」と声をかけた。


苦楽は迷った。中学一年生のときにスルメから受けたトラウマは今も残っていたが、「日給一万円」という高額報酬には抗えなかった。結果的に彼はその申し出を受け入れた。


その瞬間にふたりの力関係は確定した。


それからというもの苦楽はスルメに頭が上がらなくなった。スルメは実質的に彼の“ご主人様”となり、苦楽は彼女の一挙一動に気を遣うようになる。


その後、苦楽が『探索者』となったのは、母の一言がきっかけだった。


「会社のルールとか上司に従わずに自由に働けるから、苦楽ちゃんの性格に合ってるんじゃない?」


確かにそうだと思った。子供の頃から喧嘩で負けたことがなく、今や街のチンピラすら彼を見て目を逸らすようになっていた。


「このままでは駄目だ。いつまでもスルメのお世話係をしているわけにはいかない」


そう決意して探索者になった苦楽だったが、まさかスルメが「ダイエットとストレス発散のために、私も一緒に行く」と言い出すとは思ってもいなかった。


そうして今もふたりは探索者としてダンジョンに潜り続けている。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ