表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/48

28話

 


 東京都足立区にある舎人公園は、緑と水に恵まれた広々とした空間だ。


 春には桜が咲き誇り、夏には木陰を求めて多くの人が訪れる。敷地は現在約65ヘクタール。スポーツ施設や遊具、広場や池も整備されており、子どもから高齢者まで憩いの場となっている。


 その一角。池のほとり近くのベンチに、ひとりの女性が腰掛けていた。


 金色の髪が陽光にきらめき、まるで金糸を織り込んだように輝いている。目鼻立ちはまるで精巧に作られた彫刻作品のように整っており、天使を連想させるほどだ。


 しかし今は、その美しい顔に緊張の色が浮かんでいた。


 彼女――スルメ・クルシェフスキは、スマホの画面をじっと見つめ、耳に当てたスピーカーから流れる声に集中していた。


「事情は分かった」


 スピーカー越しに聞こえたのは、やけに自信ありげな、落ち着いた若い男性の声。


 スルメはほっと胸をなでおろした。途中、言葉が詰まったり、同じ説明を繰り返してしまったりしたが、どうやらきちんと伝わったらしい。


 これで、電話相手である『中川賢治』から、その父親――有能な弁護士に話を通してもらえる。取り調べを受けている苦楽を救うための、一筋の光が見えた気がした。


「つまり苦楽は、僕の推理力に期待しているわけだ」


「え?」


「僕に真犯人を見つけてくれと、そう言っているんだね?」


「違う!」


 スルメは勢いよく声を上げた。そのはっきりとした拒絶は、極度の人見知りである彼女にしては異例のことだった。


 更に説明を加えると、一瞬の沈黙のあと、電話の向こうで軽く笑う声がした。


「なるほど、圭介さんに弁護を頼みたいって事だったのか……」


「圭介さん?」


「ああごめん、私の家族はお互いに下の名前で呼び合うんだ」


 その説明を受けて、スルメはようやく落ち着きを取り戻した。またしても変な勘違いをしているのかと、少し不安になっていたのだ。


「わかった。頼んでおくよ。それで……私たちはどうするんだい?」


「え……?」


 突然の問いかけに、スルメは言葉を失った。


「弁護士に任せるのは良い判断だ。でも、私たちが何もせずにじっとしている理由はないよね?」


「……何をするつもりなの?」


「事件について、私たちなりに考えてみようじゃないか。もし真犯人を見つけ出すことができれば、それこそ苦楽を救う決定打になるかもしれない」


「え……?!」


 思いがけない提案だった。しかしそれは、スルメの心の奥深くにあった何かを強く揺さぶった。


「事件現場は探索者協会なんだろう?だったら、警察や弁護士よりも、探索者であるスルメ君のほうがずっと詳しいはずだ。誰も気づかない事実を、君なら見つけ出せるかもしれない」


 スルメの胸が、ドクンと大きく鳴った。


 頭に浮かんだのは、子どもの頃に夢中になって読んだシャーロック・ホームズ。繰り返しページをめくり、何度も推理に心を躍らせた日々。そしていつしか、自分もいつか事件を解決するような人になりたいと、ぼんやりと夢を見ていた。


 まさか、そんな日が本当に来るなんて――。


「やる!」


 その言葉は、気づけば自然と口をついて出ていた。スルメ自身が最も驚いていた。


「オーケー。それでこそ、苦楽のパートナーだ。私も友人として協力は惜しまないよ」


 パートナー。


 その言葉が、スルメの胸に火を灯した。


 “絶対に助け出す”


 決意が、はっきりと形を成していくのを感じていた。






最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ