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26話

 


「探索者協会の防犯カメラに君の顔がバッチリ映っているんだ。警備員を襲った時の映像もな」


 苦楽は唇を引き結び、言葉を失った。


「いいのかよ山口、そんなことまで話しちまって」


「構わないだろ。知ったところで、どうにもならんさ」


「……部外者に捜査情報を軽々しく話してはならない。刑事の基本だろ」


「防犯カメラの情報なんて大したことは無い。それにこのままじゃ、こいつは口を割らない。だから揺さぶりをかけてやるんだよ」


 まるで苦楽が聞いていないかのように作戦をばらしている。横刈り上げの方の刑事は優秀そうだと思ったが、どうやらそれは間違いのようだ。


「まあ……いいけどさ。な、聞いたろ?証拠はある。大人しく白状しろよ」


 自信に満ちた口調。だが、苦楽の脳裏には別の疑問が浮かんでいた。


「防犯カメラって、そんなに鮮明には映らないんじゃないですか?」


「は!それは昔の話だな。今のカメラは画質が段違い。一般家庭の防犯カメラでも相当はっきり映る」


 もじゃもじゃ頭が鼻で笑ったが、苦楽はもう相手の態度に注意を払っていなかった。思考が渦を巻く。


「おやおや、すっかり口数が少なくなっちまったなぁ。………それだけじゃないぜ?」


「まさか、他にも証拠が?」


 苦楽の声に、思わず驚きが混じった。


「現場にボールペンが落ちてた。今、鑑識で調べてる最中だが……もしそこからお前の指紋が出たら、完全にアウトだ」


「……ボールペン?」


 苦楽の眉がわずかに動いた。


「現場は地下倉庫。ダンジョン肉の保管場所だ。立ち入りできるのは職員か、犯人だけ。どうだ?動かぬ証拠ってやつだ!」


 もじゃもじゃ頭のドヤ顔には腹が立ったが、いまの苦楽にとってはそれに構っている余裕は無かった。


「それは……」


「おい富根、しゃべりすぎだぞ!」


「へ?」


「ボールペンの話はダメだ。部外者に捜査情報を漏らしてはならぬっていう刑事の基本を忘れたのか!」


 石像のように一瞬固まって、勢いよく喋り始めた。


「ちょっと待てよ、さっきお前だって防犯カメラのこと喋ったじゃねぇか。俺のときだけ怒るなよ、馬鹿!」


「馬鹿は言いすぎだろ!いいか、カメラはまだマシだが、ボールペンは絶対ダメなんだよ馬鹿!」


「なんでだよ!同じようなもんだろ!」


「違うっつってんだよ!だからお前は“うるさいだけ”って言われるんだよ!」


「誰がそんなこと言ってたんだよ!?そいつ、俺は絶対許さねぇからな!言えよ!」


「言うわけねえだろ!」


「俺たち、中学からの親友だろ!」


「そうだよ!」


「だったら、俺の悪口言ってるやつがいたら言い返せよ!」


 二人の刑事が子どものように口喧嘩を始めた。声は次第に大きくなっていく。だが――


 苦楽にはもう、彼らのやり取りが遠くの雑音のようにしか聞こえていなかった。


 自分は犯人じゃない。


 それは絶対の事実だった。だが、第三者がそれを認めなければ――その事実は意味を持たない。


 苦楽は知っている。刑事ものの小説を読み漁った日々。その中で何度も目にした数字――日本の刑事裁判の有罪率、99%。


 一度起訴されれば、ほぼ間違いなく有罪になる。


 冤罪。


 刑務所。


 意識不明だという警備員。もしそれがそのままなくなってしまったら――そうしたら自分は殺人犯という事になる。


 悲しむ両親の顔が浮かんだ。


 悲しむスルメの顔が浮かんだ。





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