24話
振り返ると、スーツ姿の男が二人。40代くらいの、もじゃもじゃ頭と、横を刈り上げた鋭い目つきの男。どちらも、見たことがない顔だ。
「誰だお前ら」
「警視庁足立警察署の富根だ」
「同じく、山口」
二人はほぼ同時に内ポケットから警察手帳を取り出した。ドラマでよく見る、あれだ。
「この探索者協会内で起きた強盗事件の件で、事情を聴きたい。今から署まで同行願いたい」
「……断る」
「は?」
もじゃもじゃが目を剥いた。
「警察への協力を拒否するということは、何かやましいことがあると考えるしかないですけど、それでいいですかね?」
口調は丁寧だが、表情は完全に喧嘩腰だ。本当に刑事か? と思うほど、感情が表に出ている。
「勝手に思えばいい」
「なんだその態度は!」
「そう言われてもな………」
苦楽は顎をさすりながら、視線を巡らせた。
周囲の探索者たちが面白そうにこちらを眺めている。スルメに言い寄る輩を威圧するために、いつも傲慢な態度を取ってきたツケだ。
警察に逆らって良いことが無いのは分かっているが、かといって今さらキャラ変はできない。
「くらく………」
いつの間にか背後にスルメが回り込んでいた。声が震えている。
「大丈夫だ、俺は今回の事件には無関係だ」
「無関係なら協力してください。その事を証明するためにも、警察署へ行って話をしてもらいたいんですよ」
今度は横刈り上げが、笑顔を浮かべて言った。その笑みが逆に不気味だ。
「スルメ、中川賢治、知ってるだろ?」
「苦楽の友達の?」
「ああ。あいつに事情を説明して、助けてもらうよう頼んでくれ」
「苦楽は?」
「ちょっと警察署まで」
「え………」
スルメの不安そうな瞳に、もう二度と会えないような気配が漂っているのを感じて、苦楽の胸に小さな痛みが走った。
「それでいい。警察への協力は市民の義務だ」
「うるせえ、もじゃもじゃ!」
「なんだと、てめぇ!」
もじゃもじゃが殴りかかる素振りを見せたが、ギリギリでこらえた。それでも腹が立たなかったのは、このもじゃもじゃ頭を見ていると学生時代を思い出したから。
クラスにいたいじられキャラのやつがこんな感じだった。口は悪いんだけど、なぜか嫌な気持ちにならないし。むしろもっと怒らせてやろうと思ってしまう。
「大丈夫、すぐに戻って来るよ」
悲しげな瞳のまま何も言わないスルメを見たら泣きそうになってしまった。
刑事にピッタリと張り付かれて歩き出す背に、苦楽の心を抉る声が降り注いだ。
「ああ、やっぱり……この人が犯人だったんだ……やっぱり、やっぱりだ………」
新人受付嬢の春風十色だった。
……違うって言ってんだろ、と心の中で呟きながら、苦楽はため息をついた。
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