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21話

 


 虎之助少年の視線を受けてスルメは微笑みながら言う。


「私よりも小太郎の方がすごいよ。あの鞄におしっこをかけなかったら、私も気付かなかったかもしれない」


「確かにそうだな。あの鞄の中に盗まれたものが入っていると最初に発見したのは小太郎だ」


 ゴールデンレトリーバーの子犬が、虎之助に撫でられてうれしそうに尻尾を振っている。


「あの後考えてみたんですけど、たぶん、男の鞄から盗まれた女性のにおいがしたんだと思います。でも僕、そんなこと全然気づかなくて、小太郎を叱っちゃって……」


「仕方ないさ。悪いのはあのひったくり犯だ」


「うん。虎之助は悪くない。小太郎も悪くない」


 スルメの言葉に、虎之助はほっとしたようにうつむいた。


「昨日、警察官が来たときは、俺もちょっと焦った。だけど、虎之助が勇気を出して話してくれたおかげで助かったよ。子供の証言は強いからな」


「その時は必死で……何を言ったのか、もう覚えてないくらいです。助けてもらったのに、僕が何もしなかったらだめだと思って……」


「かっこよかったよ、あの時の虎之助は」


「……ありがとうございます」


 また虎之助は照れくさそうにうつむいた。


「スルメが誰かを褒めるなんて珍しい」


「そうなんですか?」


「俺なんか、一度も褒められたことないし」


「嘘を言わないで。私を怖い人みたいに言わないでよ」


 スルメの少し強めの声に、苦楽はあたふたと手を振った。


「冗談だって、スルメは優しいよ。よく褒めてくれる」


 虎之助はそのやりとりを見ながら、なるほど、と心の中で頷いていた。


 苦楽は体が信じられないほど大きく、昨日は六人相手に圧勝していたが、それでもスルメのほうが上手うわてらしい。怖い人は、見かけで判断できない。


「虎之助は、音楽をやった方がいい」


「え?」


 朝ご飯に何かを食べたか、学校ではどんな勉強をしているかなど話しているとき、スルメがぽつりとそう言った。金色の髪が風に柔らかく揺れていた。


「私の勘」


「勘……ですか……」


「良かったな、虎太郎。君の将来はもう決まった。君はミュージシャンになるのだ」


 その時、公園を渡る一陣の風が、若葉を揺らしながら通り抜けた。光と影が芝生を模様のように彩り、空はどこまでも青かった。


(ミュージシャンか……)


 虎之助の胸が、不思議なほどに高鳴っていた。理由は分からない。ただ、スルメの声が心の奥に染み込んでくるような気がした。


 そんな少年の膝の上に、小太郎が元気よく飛び乗り、嬉しそうに一声、ワンと吠えた。







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