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20話

 


 東京都足立区にある舎人公園は、緑と水に恵まれ、広がる空と多様な自然が楽しめる。敷地は約六十五ヘクタール。季節の花が彩る花壇に囲まれながら、スポーツ施設や遊具、広場、池などが整然と整備されている。


 日曜日の朝、まだ空気に静けさが残る午前九時。湿り気を帯びた土と新緑の香りが風に運ばれ、晴れ渡る青空の下、鳥のさえずりが高く響く。


 そんな中、苦楽はいつものように朝に弱いスルメの手を引き、この広い公園へやってきた。


 ベンチではスルメがサンドウィッチを小さな口で静かにパクついている。その横で、苦楽は黙々と柔軟体操をしていた。


「苦楽さーん! スルメさーん!」


 芝生の向こうから元気よく手を振りながら走ってくるのは、マッシュルームカットの少年と、ふわふわの金色の毛を揺らして駆けるゴールデンレトリーバーの子犬だった。


「虎之助! 小太郎!」


「おーい」


 太鼓のように響く苦楽の声と、寝起きの声で応えるスルメ。ふたりが笑顔で手を振り返す様子は、まるで朝の連続ドラマの一幕のようだった。


「体調は大丈夫?」


「体調ですか?」


「昨日はいろいろあったから、虎之助がストレスで具合が悪くなっていないかってスルメが気にしていたんだ。もちろん、小太郎のこともな」


「そういうことですか」


 隣に座った苦楽の説明に、虎之助は目を丸くして、それからふっと笑って言った。


「全然大丈夫です。僕も小太郎も朝からご飯をたくさん食べてきましたから」


「よかった………」


 スルメがやわらかく微笑んだ。


「それにしても昨日の苦楽さん、すごかったです。六人を相手に全然怖がらずに、あっという間に倒してしまって。まるで映画を見ているみたいでした」


 虎之助の瞳が、眼鏡の奥できらきらと輝いている。


「なに、あれくらい容易いことだ」


 苦楽はそっけなく答えるが、その顔には得意げな色がにじんでいた。


「本当にすごいのはスルメだ」


「え?」


「ひったくり事件の犯人を捕まえられたのは、スルメの観察眼と勘のおかげだからな」


「そういえば、どうしてあの鞄の中に盗まれた財布が入ってるって分かったんですか?」


「スルメは勘が鋭いんだ。男たちの様子を見て、ピンと来たんだろう。俺はそれを信用して、警察に伝えただけだった」


「へえ……勘、ですか……」


 虎之助は不思議そうに目を瞬かせて、スルメの方を見た。




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