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18話

 


「窃盗事件というのは……なんですか?」


 苦楽が、目の前の制服姿の二人に問いかけた。本来なら警察など関わりたくない相手だが、妙に引っかかるものがあった。


「この近くの商店街で、ひったくり事件が発生したという通報があってな。我々はその対応で来たんだ」


 年配の警察官――里崎は、隣の若い女性警官・袴田のほうをチラリと横目で睨みつけながら、ため息交じりに答えた。その視線には、余計なことを喋るなという苛立ちが混じっている。


「里崎さん、聞き込みのためには多少の情報を伝えるのはやむを得ないと思います。私はうっかり喋ったわけじゃなくて、この人たちが何か知ってるかもしれないって判断して、あえて伝えたんです」


 袴田は色白の丸顔に不服そうな表情を浮かべながら、言葉を畳み掛ける。だが、その口調はどこか芝居がかっており、即興の言い訳であることは明白だった。


「……そうだったら、いいんだけどな。ほんとに、そうだったらな」


 里崎はぼやくように言いながら、深く息を吐いた。


「それで、君たち。何か怪しい人物を見かけたりしていないか?」


「そう言われても……」


 心当たりなどあるはずが無かった。


 ついさっきまで集中していたのは、自分にとって「負けられない戦い」だったのだ。周囲の人間のことなど、正直なところ目に入っていなかった。


「犯人は、痩せ型でやや背の高い若い男たちのグループらしいです。商店街の銀行から出てきたおばあさんのバッグをひったくって、そのまま逃走したそうです。このあたりでは最近、似たような事件が連続していて……警戒を強めていたんですが、またやられてしまいました……」


 袴田の説明は、すらすらと言った。


「おい袴田、それは言いすぎだ。捜査情報をそんなに簡単に漏らすんじゃない」


「大丈夫ですよ、里崎さん。この人、犯人じゃありません。体が大きすぎますからね」


 苦楽は身長198㎝体重113㎏。ひったくりなどしたら、目撃情報からあっという間に捕まってしまうだろう。


「そういう問題じゃないんだよ、まったく……」


 里崎が頭をかくようにして、苛立ちを隠しきれない。


 苦楽は、少し驚いた。


 袴田という女性警官は、先輩からたしなめられたばかりだというのに、まったく堪えた様子がない。自分の判断で情報を出し、勝手に推測して決めつけている。だが――それを軽率と切り捨てきれない芯の強さも感じられた。


(見た目にたがわず……いや、見た目以上に優秀なのかもしれない)


 そんなことを考えていると、不意に服の袖が引っ張られた。


「苦楽……」


 傍らに立つスルメが、小声で問いかけてくる。


「この女性も、あなたの知り合いなの?」


「そうなんです。一緒に探索者をやっている、スルメって言います」


「あら、へぇ~……そうなんだ~?」


 袴田が妙にねっとりした声で、スルメを見つめる。観察するような視線には、どこか含みがあった。


「ふたりは付き合ってどれくらい?」


「いえ、そういう関係じゃないです」


「そうなの?でも好きなんでしょ?」


 何だこの警察官、うざいなぁ………。そう思っている苦楽の目にスルメの指先が映った。


 そこにいたのは、赤い髪の男。まるで隠すようにして腕に黒いバッグを抱えている。


 虎之助少年の足元には、不貞腐れたように地面に寝そべっている小さなゴールデンレトリーバーの小太郎がいる。


(そうか……!)


 スルメの意図を、苦楽はすぐに悟った。






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