17話
「うっ………」
ビシッと制服を着こんだ二人の警察官が、公園の小道を真っ直ぐに歩いてくる。苦楽は思わずうめき声を漏らした。
さざ波のような風が木立を揺らし、さっきまでざわついていた人だかりも、警察官の登場と共にすっと引いていく。
遠巻きに様子をうかがっていた大人たちは、目を合わせるのも避けるように、一人、また一人とその場を離れていった。
苦楽は警察官が苦手だ。
世間的には、警察は正義の象徴、安心をもたらす存在なのかもしれない。
だが、少なくとも今日の苦楽には、味方とは到底思えなかった。普段から目には目を歯には歯をでやってきているし、今現在、すぐ近くには六人もの男たちが足を押さえ苦悶の表情を浮かべながら転がっている。
「ちょっとこれ、なに、どうしたの?」
先に口を開いたのは、眉毛の太い、ホームベースのような輪郭をした男の警官だった。砕けた口調だが、その声には明らかな威圧感があった。
「もしかして喧嘩じゃないですかね、里崎さん」
隣に立つ、背が高く色白で丸顔の女性警官が周囲をぐるりと見まわして言った。
「喧嘩かぁ……。あー喧嘩は駄目だよ。もしこれ以上騒ぎを大きくするつもりなら逮捕するよ? 袴田、ちゃんと手錠は持ってきてるんだろうな?」
「何言ってるんですか里崎さん、当たり前じゃないですか」
袴田は笑って答えるが、その笑顔にはどこか緊張が混じっていた。
そのとき、ふたりの間に割って入るように、小柄な少年が一歩前へ出た。マッシュルームカットの髪型が、風に揺れている。
「これには事情があるんです!」
声は張っていたが、決して乱暴ではない。しっかりとした、通る声だった。
「おお!」
苦楽は思わず感心の声を漏らす。
彼は確信した。この少年――小太郎の飼い主である彼は、正義感とまっすぐな心を持った子供だ。先ほどからの受け答え、そしてその態度すべてに、裏表のない真摯さがにじみ出ている。
「実は僕が飼っているゴールデンレトリーバーの小太郎が………」
少年は落ち着いた口調で、今回の騒動の一部始終を説明した。ふたりの警察官も、驚いたような顔で耳を傾けている。
その眼差しは濁りが無く真っ直ぐ。そしてどこか優しさの滲むその目が、警察官の疑念を和らげていくのがわかる。
やがて、里崎がポツリと口を開いた。
「なるほど………事情は分かった。喧嘩はもう終わっているようだし、今日のところは見逃してあげよう。ただし、さっきも言ったけど、いくら子供を守るためだったとは言っても、次もまたやったら、ちゃんと逮捕するからね?」
「……わかりました。すいませんでした」
苦楽は素直に頭を下げる。その動きに嘘はない。
「なんだ、思ったより素直なんだな」
里崎は拍子抜けしたような、少し安心したような顔をした。
「てっきり窃盗事件の犯人と関係があるんじゃないかと思ってやって来たのに……違うみたいですね」
袴田が口を滑らせたように言い、しまったという顔で口元を押さえた。案の定、隣の里崎が「おい」と小声で睨んだ。
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