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14話

 


 朝と言うにはやや遅い時間の陽射しが、やわらかに地面を照らしている。広大な敷地を誇る公園の主役は今、間違いなくここにあった。


「オイ! みんな来てくれ!!」


 遥か昔に見た戦隊ヒーローの記憶でも蘇ったのか。正義を名乗った《千光苦楽》の誤算は、敵がひとりではなかったということだ。


「マサル、どうした、なにかあったのか?」


 コンビニ袋をぶら下げた、いかにも悪そうな若い男たちが五人。わらわらと、音もなく芝生の坂を降りて集まってきた。そして安物のペンキのような赤い髪をした、ニキビ顔の男の元へと集まって来た。


「こいつがよ! 自分は正義の味方だとか何とか言って、俺に因縁つけて来やがったんだよ!」


 仲間が戻って来たことで明らかに安堵し、調子に乗り始めたマサルがせせら笑いを浮かべながら苦楽の顔を見る。


「正義の味方だ!?」


 男たちはいっせいに噴き出す。


「おいテメェ、何歳だよ、え!? 馬鹿か!? 馬鹿なのかよ?」


「ダセえ! ダッセえなこいつ、クソほどダッセえ!」


 その言葉は鋭く突き刺さる。


 ああ、なんてことだ。苦楽は、かつてないほどの恥ずかしさに身を焦がしていた。


 一体どうして自分は正義の味方なんてものを名乗ってしまったのか。心臓の鼓動が耳の奥で暴れる。


 羞恥、自己嫌悪、逃げ出したい――そんな感情が、頭を埋め尽くしていく。穴があったら入りたい、なんて陳腐な表現では到底足りない。頭の中が真っ白になりかけた、そのときだった。


「苦楽、がんばれ!」


 その声は、閉じかけていた心の扉を叩き破った。


 振り返ると、陽光を金色の髪に吸わせた幼なじみがいた。小さな拳を胸の前で握りしめ、まっすぐな目でこちらを見ていた。


「がんばってください!」


「わん! わんわんわんわん!」


 騒動の発端となったマッシュルームカットの少年も、傍らで小さなゴールデンレトリーバーを抱えながら叫んでいた。


「がんばえー!」


「がんばえー!」


 気がつけば、公園中の子どもたちが集まってきていた。ブランコも、滑り台も、ベンチも空になっている。


 逃げられない。


 これだけの視線を受けてしまった今、逃げ出す選択肢は、もうどこにもなかった。


 ――やるしかない!


 胸の奥に火が灯る。恥を上書きするように、苦楽の意識は戦いへと集中していく。


 苦楽はニヒルな笑い顔をした。


「……あまり強い言葉を使うなよ――弱く見えるぞ」


 明らかにどこかで聞いたことのある借り物の言葉だったが、子どもたちはそんなことには気づかず、むしろ大きな歓声を上げた。


 掌にじわりと汗がにじむ。だが、不思議と足は震えていない。足は肩幅よりも少し広く取り、両手を顎の下あたりに構える。


 ゆったりとしたファイティングポーズ。


 戦闘を生業とする探索者。《千光苦楽》の、絶対に負けられない戦いが――今、始まった。






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