12話
東京都足立区にある舎人公園は、緑と水に恵まれ、広がる空と多様な自然が楽しめる。敷地は現在約65ヘクタール。スポーツ施設、遊具、様々な広場、池などが整備されている。
子供、親子連れの姿も多く絵画にするのには理想的な環境ではあるが、ここにはダンジョンがある。
魔物、宝、魔方陣。現代の科学をもってしてもその全てを解明することが出来ない未知の存在。であるからして、この公園にはいつも、明らかに堅気ではない見た目をした者たちの姿がある。
探索者。
自分の命をチップとして魔物と戦い大金を得ようとする者たち。頭が悪く粗暴で後先を考えない。世間一般における探索者のイメージはそう言ったもので固まっているが、中にはそうでない者もいる。
例えば今、池の近くにある木陰のベンチに座って、サンドウィッチを頬張っている女性。彼女なんかはまさにそうだ。
彼女の名前は、『スルメ・クルシェフスキ』
知り合いの日本人から貰ったスルメという食品の美味しさにいたく感動した、ポーランド人の両親によって付けられた名前。
モデル顔負けの美しい顔立ちと共に目を引くのはその髪。光を含み、そして弾き返しているあまりにも美しい金色の髪の毛は、染料によるもので無いことを示している。
朝露に濡れた芝生から立ち上るかすかな湿気の中、小さな口で少しずつタマゴサンドにかぶりつき、時々魔法瓶に入った甘いカフェオレを飲む。
まぶたは半分落ち、ぼさぼさの髪が額にかかっている。保護欲を誘うその姿は、まるで眠り足りない猫のようだ。
しかしながら彼女を甘く見てはいけない。なぜならば、一流の探索者であり、そして超能力者だから。本気を出せば、猛獣並みと言われる強さを持つ七階層の魔物でさえも軽く倒すことが出来る。
そんな女性の近くで、青空を仰ぎながらストレッチをしている凶悪な見た目の男が一人。『千光苦楽』。身長198cm、体重113kgの日本人離れした巨漢だが、その目の奥には繊細さがある。
朝が弱いスルメとは対照的に、朝食は家でしっかり済ませている。こうして体を動かして探索者としての準備を整えるつもりだ。
その巨体は、ただ大きいだけではない。両脚を大きく開いて前屈し、肩をぐるりと回せば、筋肉の下に隠れたしなやかさがあらわになる。しなった背筋が、静かに朝の光を受けていた。
風が吹く。遠くの林の梢がさわさわと揺れ、朝の空気に鳥のさえずりが混じる。池のほとりではカモの親子が草をついばみ、ジョギングする人々がまばらに通り過ぎていく。
そんな穏やかな朝の風景に、不意に粗暴な大声が割り込んだ。
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