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11話 ~約束~

 

 朝のカーテンを開けると、澄んだ光が部屋いっぱいに差し込んできた。窓の外では、淡く金色に染まった空を背景に、青葉が朝風に揺れている。鳥の声がかすかに聞こえた。


「よし」


 午前七時。木々の青さを見て頷いた苦楽の表情に、眠気の影はなかった。目が覚めた瞬間から頭が冴えている。極稀に、こんな朝がある。静かで、清らかで、すべてがうまくいきそうな気がする。とても気分がいい。


 今日は土曜日、つまりダンジョンに潜る日だ。


 いつも通り、スルメの携帯に電話を掛ける。呼び出し音が三回鳴ったところで通話を切る。応答がないのも、いつも通り。だが、それでいい。


 階下に降りて、キッチンで目玉焼きを四つ焼く。そのうち二つを白米の上にのせ、醤油を回しかける。残りは家族の分。苦楽は実家住まいなのだ。


 湯気が立ち上る白米と、じんわり焼けた黄身の香ばしさが鼻をくすぐる。毎朝の定番メニューだが、今日はいつもより少しだけ、おいしく感じた。


 朝の光が差し込む食卓で静かに朝食を済ませ、部屋に戻って準備を整える。時間まではネットを眺めて過ごし、予定通りに家を出た。


 玄関先で、もう一度電話を掛ける。待つこと三分ほど――カチャ、と控えめな音を立てて隣の玄関のドアが開いた。


 金色の髪はぼさぼさで、寝癖があちこちに跳ねている。小さなリュックサックを背負いふらふらと歩いてくる姿は、夢遊病者のようでもあり、妖精のようでもある。


 誰が見ても明らかだが、スルメは朝にとても弱い。時刻は午前八時。一般的には早朝とは言えないが、彼女にとっては「夜明け前」に等しい。


「スルメちゃん、おはよう」


「………はよ………」


 蚊の鳴くような声。それでも今日は二音聞き取れたから、悪くないほうだ。苦楽は少し笑って、そっと左手を差し出す。


 彼女はその手を無言で握り返す。手を繋いで歩いている、というよりも、引っ張られて歩いている、と表現した方が正確だろう。


 これが、ふたりのいつものダンジョンへの道程。


 街路樹の緑の下を、手を繋いだふたりが歩いていく。通り過ぎる人々が、羨ましそうに、あるいはほほえましそうに目を向けてくる。


 ダンジョンに行くときは、ふたり一緒に行く。


 それが、ふたりの大切な約束なのだ。





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