意外な落とし物
もし寝てしまったらその間に襲われて永遠の眠りにつきかけないので、寝ているような寝ていないような微睡の時間を過ごす。
パチッと目を開けると、痛みや疲労が少しだけましになっていた。
瞑想、成功したのかな……。
魔法とかもあるファンタジー世界だもんね。瞑想ぐらいできるかなって思ったけど正解だったみたい。
痛みがましになったことで、思考も少しだけクリアになる。
足を動かしてみる。大丈夫、歩ける。
腕を動かしてみる。大丈夫、動かせる。
これなら、次はもっと楽にゴブリンを殺せるかもしれない。
スライムから逃走した日からしばらく経ち、私は3匹のゴブリンと対峙していた。
1匹のゴブリンが振り下ろした棍棒をかわし、足をひっかけて地面に倒す。
すぐさま全体重をかけて顔面を踏みつけた。
さすがにこの程度で死ぬことはないが、狙い通り棍棒を手放したので、それを拾い上げて向かってきていた2匹目の顔面を殴打する。
「ぐぎゃ!!」
悲鳴をあげて倒れるゴブリン。
まだ暴れまわる1匹目の頭を棍棒で何度か殴打し、静かにさせた後2匹目も同じように静かにさせる。
一連の流れを見ていた3匹目が、震えながら後ずさりして、背をむけて駆け出した。
「うん、なかなか戦えるようになってきたね。」
ボロボロのグズグズになっていた時が嘘のよう。
あのなんで生きているのか不思議なぐらい傷だらけだったのによくここまで回復したものだよ。
ほんと、頑丈なんだよなぁ、この体。
なにが体によかったのか全くわからないが、大きな骨折以外の怪我は大体治ってきていた。
やっぱり魔石を食べるからなのかな。魔力を取り込んで、体を治す的な。別に回復魔法が使えるようになったわけではないみたいだけど。
あとは、休んでいるときの瞑想?
なんにせよ、こうしてある程度まとまった数のゴブリンに襲われても撃退できるようになったのはありがたい。
ゴブリンが落としていった棍棒を拾い、広大な下水の迷宮を歩き続ける。
流れている方向に歩いていけばいずれ出れるか、どっかに繋がっていると思うんだけどな……。
基本的には下水の流れに沿って歩き、たまにスライムと鬼ごっこ。
一度、棍棒で魔石をたたき割れないか試してみたが、魔石を動かされて狙いを外し、逆に粘度を高めた体で棍棒を奪い取られてしまった。
ほんっと現実だとゲームみたいにはいかないよね。
ゴブリン一匹倒すだけでも苦労したし、スライムについてはいまだに倒せないし。
ゴブリンはともかく、スライムがとにかく厄介すぎる。多分魔法かなにか使わないと倒せないんだろうな。
いつか魔法が使えるようになったらスライムにリベンジしてやるのもいいかもね。
そんなことを思いながら歩いていると、騒がしい足音が聞こえてきた。
この足音は、ゴブリン?しかも複数。3,いや4体かな?
立ち止まり、耳を澄まして音を聞く。視界のほぼ効かないこの世界では、聴覚が異様に鋭くなった気がする。
さっき逃げたやつが仲間を連れてきたのかな。
周囲の状況を確認。
天井や細い排水管にスライムはいない。
いざというときの逃げ出す細い通路もある。
うん、ここで待っておこう。
やがて、やかましい足音が近づいてきて2体のゴブリンが通路を走っていく。
そして3体目が、自分の潜んでいる細い通路の横を通り過ぎようとした瞬間、足を出してひっかけて転ばせる。
「ゲッ……!」
派手に転ぶゴブリン。そいつはおそらく、さきほど逃げた個体。
前の2匹が何事かと立ち止まる。
私は細い通路から素早く抜け出し、転んだ3体目を無視して前の2匹に狙いを定める。
虚をつくことに成功し、2匹目を棍棒で殴り倒す。
事態を把握した1匹目が何事か叫び、私に向かって棍棒をでたらめに振り回してくる。
怒りか、焦りか、狙いもなにもないただ闇雲に振り回すだけの棍棒なんて怖くない。
冷静に当たらない距離を保ち、棍棒を避ける。
やがて、体力がなくなってきたのか振る勢いがなくなってくる。
そりゃそんな適当に振り回していたらしんどいでしょ。
ふらふらになりつつあるゴブリンの棍棒に、自分の棍棒を力強くぶち当てる。
そんなふらふら状態で持ちこたえられるはずもなく、ゴブリンの棍棒は手から離れ飛んでいき、下水の中に落ちる。
ゴブリンの方も、衝撃で地面に尻もちをついてしまっている。
「バイバイ。」
別れの言葉をかけると、ゴブリンの、恐怖に染まった目と合う。
その怯え切った目に、私は一瞬躊躇……することもなく棍棒で殴り倒した。
「この世界だと、殺すか殺されるか、でしょ?」
3匹目に振り返ると、いまだ倒れたままこちらを見ている。
「また逃げる?」
人間の言葉がわかったのか、それとも本能か。
またしても最後に残った1匹は慌てて立ち上がり、途中1回転びながら走り去っていった。
「悪運が強いんだか弱いんだか……ん?」
逃げていくゴブリンを見送り、ふと足元に光るものを見つけた。
「ナイフ……?」
ナイフ、というにはひどく錆びてボロボロだが、使えなくはない。
一番に殴り倒したやつが持っていたのか。
こんな物をもっているやつを呼びにいくってことは、あいつの逃げた先にゴブリンたちの巣でもあるのかな。
少しだけ考えた後、もうかなり遠くにいってしまった足音を、急いで追いかけた。