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聖女アウルディア

…………セ


!?


子供たちの寝息だけが聞こえる静かな部屋に、一瞬雑音が入った気がして周りを見る。


だが、部屋の中は変わりなく、子供たちにもなにかあった様子はない。


気のせい……?


…………ク、メ


そう思い、目を閉じた時に再び雑音が聞こえる。


「気のせいなんかじゃない」


なにか、感じる。

リィン、起きてる?


『起きたよ。私にも聞こえた。なんか、不愉快な嫌悪感を感じるような声が』


リィンにも聞こえたというならばもう確実だ。


『これって、大分濁っているからわかりにくいけどダルの声だよね?』

あたしもそう思う。

『あいつ完全に消滅したと思ったのに、まだなにか罠をはっていたのかな』


…………コロセ


…………ニクメ


…………イカレ


頭に直接響いてくるダルの声。

声、というのも少し違う。

リィンの声が頭に響くときはもっと話しかけられているように聞こえるが、この声は……。


『私の状態がどうなっているかわからないけど、私の頭にも響くように聞こえてくるっておかしいよね。どうなってるんだろう?』

それはわからないけど、これがただの思念とは思えない。

『子供たちの様子は変わらないみたいだけど……』


周囲を警戒し、なにかあればすぐに対応できるように状態を整える。


「誰か来た。いや、この気配は知ってる」


フリーの耳がぴくんと動き、来訪者を知らせる。

その気配は2人ともよく知っている気配で。


「フリー、リィン……起きているか」


ドア越しから声をかけてきたのはやはりツァリ。

だが、声に覇気が感じられない。


「起きてるよ。どうしたの?」


ベッドからそっとおり、ドアを開ける。

そこにいたのはやはりツァリで、だが様子がおかしい。


「どうしたの?」


ツァリの顔は青ざめていて、なにかに耐えるように片手で頭を押さえて苦悶の表情を浮かべている。


「フリーは、なんともないのか……?」

「この声のこと?」

「そうだ……あ、頭に直接呪言を叩きこまれている……」

ツァリがなにかを拒むように頭を振る。

「呪言が聞こえていて……なぜ、フリーは平気なんだ……?」

「よくわからない。確かにダルの声は聞こえてくるけど、とくになんともない」

「り、理由はわからないが……それならば、アウルディア様のところに行ってくれ……」

「アルのところに?」


ツァリが一際大きく頭を振り、なにかを振り払い、血を吐くように言葉を絞りだす。


「呪言に込められた呪いは……アウルディア様を恨み、呪い、殺せというものだ……!」



それを聞いた瞬間、フリーは部屋を飛び出していた。




だが、その足はすぐに止まることとなる。



「なに、これは……!」



部屋を飛び出し、道路を走ってすぐに異変に気が付く。

聖都全体を覆っているような、重く、息苦しい空気。

道を歩く人々は、まるでゾンビのようにゆらゆらと歩き、だが目だけは異様に紅く輝いている。


「みんな、教会の方に向かっている?」

『わずかな魔人の魔力が、都全体を覆っているのを感じる』


一跳びで屋根の上にうつり、家の屋根伝いに教会へと急ぐ。


教会の周囲は、もっと異様な空気に包まれていた。


聖都の住人が、老若男女問わず集まり、つめかけている。

そこには聖都を守るはずの守護騎士の姿もある。


「聞こえる……住人たちの声が」


ピクピクと耳を動かして、フリーが住人の声を拾う。


怒鳴り声をあげているわけではない。


ただみんな静かに呟いている。


まるで、呪いのように。


『呪言……』


うわごとのように繰り返される、怨嗟の言葉。


それは静かに、だが確実のこの聖都を蝕んでいる。


「アルがいた」


フリーの視線の先、そこには手を縛られ、柱にくくりつけられて、まるで罪人のような扱いを受けているアルの姿があった。


『なんでアルがあんなことに!?』

「呪言の影響かもしれない。すぐに助けないと」


屋根から屋根へと飛び移り、アルの前に着地しようとした時。


(来ないで!)


頭に響くアルの声。

同時に展開される光の結界により、フリーは空中で動きが止まる。


「アル?どうして」


(いまフリーたちがきたら確実に狙われる!)


「大丈夫。全員蹴散らしてアルを助ける」


(フリーたちなら大丈夫だと思う。でも、この都の住人がどうなるかわからない)


(この人たちは全員、操られているだけ。フリーならわかるでしょう?聖都を覆っている魔人の魔力が)


「わかるけど、でもだからこそこいつらがなにするかわからない」

『そうだよ。だから、とりあえずアルを助けてそれから……!』



―――コン



無機質な音が響いた。


それはとても静かで小さい音。


だが、その音をきっかけに、集まっていた感情が、膨れ上がった風船のように一気に爆発した。



投じられた一石。

生じた波紋が、集まっていた人々に広がっていく。



溢れる殺意。憎悪。

飛び交う怒声。



「なに……?」

『一体、なにが起こったの?』


突然、教会に集まっていた人々が怒声をあげながら石を投げ始めた。


狂気。


そう表現するしかない光景に、フリーもリィンも思わず動きが、思考がとまる。


アルにむけて投げられる石。

呪いを込められた石は聖女であるアルの身体を容易に蝕む。


(おそらく、魔人ダルが仕掛けていたのでしょう。自分の死をトリガーに発動する最低最悪の魔法)


それはこの聖都全部を対処にした呪いの魔法陣。

自分が死ぬことにより発動し、人々の悪感情を増大させる。

そして、溢れる悪感情の矛先がすべて、聖女であるアウルディアへと集約されている。


(この呪いを解く方法はおそらく一つだけ)


『まさか……!』


念話越しに、アルが笑っているのが伝わってくる。


(そう、呪いを向けられている対象の死。すなわち、私が死ぬことでこの呪いは解呪される)


「そんなのだめ!!!」


自分を捕えている結界を破るため、リィンが魔法を放つがなんの手ごたえもなく消えていく。


「くっ、この……!」

「魔法がダメなら物理」


フリーに代わり、鋭い爪で引き裂こうとするも弾かれてしまう。


「この強固な結界、自分に張ったらいいじゃん!なんで私たちに使ってるの!?」


(それだと、私が死ねないから)


住人の投げた石が頭や腕に当たり、全身は徐々に血にまみれてきている。

だがそれでもなお、アルはすべてを受け入れて自身を守ることも治癒することもない。


「そんなの間違ってる!間違ってるよ!!なんでそのためにアルが殺されないとダメなの!?」




(だって私は、この聖都を守る聖女で、この聖都が大好きだから)




アルの笑顔が、脳裏に思い浮かぶ。


聖女としてのアルの想い。覚悟を前に、リィンは何も言えなくなりただ静かに涙を流す。


(リィン、フリー。私と仲良くしてくれてありがとう。たった一回しか冒険にはいけなかったけど、とても楽しかった)


「また行こうよ!私たちがアルを助ける!」

「今まで守ってくれていた人を殺すなんて、こいつらに守る価値なんてない」


獣人化。

双頭の狼が、結界の中で暴れまわる。

だがそれでも、聖女アウルディアが命をかけて発動させた結界は、破れない。


(そういわないであげて。この人たちは操られているだけ。なにも悪くない。悪いのはすべて、魔人)


リィンとフリーの言葉をうけても、アルは乱れない。

静かに、言葉を続ける。



(叶うなら、もう一度だけ3人で冒険に行きたかったね)



結界ごと、上空へ浮かび上がっていくフリーとリィン。


「どうして、アル!!」


(私のために怒ってくれてありがとう。でも、ごめんね。私はこの聖都の住人たちが苦しむ姿を見ていられないの)



遥か上空から、アルの姿見えた。

磔にされて、ボロボロになってなお、アルは穏やかに笑っていた。



その笑顔を見た時、聖女の魔力にあてられたのか、リィンとフリーの中に渦巻いていた憎悪の感情が浄化されていく。




誰かが、なにをしたのか。

アルの足元が燃え始める。

それを合図に、周囲の人々から魔法が放たれたのか、アルの全身が一気に燃え上がる。


「アルーーーー!!!!!」


リィンの慟哭は、青空へと吸い込まれて消えていく。


(短い間だったけど、本当に楽しかったよ)


痛みも、苦しみも、悲壮も、なにも出さずアルが答える。



リィンとフリーの視界が白い光で埋め尽くされ、




―――二人の人生に、幸がありますように。




アルの、優しい言葉が胸に届いた。

読んでくださりありがとうございます。


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