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何事もなかったかのような夜

まるで何事もなかったかのような、異常なほどに静かな夜。


リィンはベッドに座ったまま窓から空を眺める。


静かに、カチャリ、とドアが開きツァリが入ってくる。


「眠れないのか?」

「ちゃんと休息は取っているから平気だよ」

「そうか。なら、良いが」

そういって、ツァリがリィンの周りを見て小さく笑う。

「ずいぶんとなつかれたものだな」

リィンの周囲には、子供たちがいた。

孤児院にいた子供たち。

その中には、ミミやキャット、ベアとベンガルの姿もちゃんとある。

眷属化していたダルを葬ったことで、眷属化が解除されたのだ。

はじめは孤児院が無くなっていることにショックを受けていた子供たちだったが、ぼんやりとだが記憶は残っているようで、さしたる混乱もなく、自分たちを守ってくれたと理解しているリィンにべったりだった。

「フリーはどうしているんだ?」

「眷属化されそうになった影響が大きかったのか、まだ休んでるよ」

「そうか。その影響とやらはなくなるのか?」

「うん。明日の朝には回復しているんじゃないかな」

『あんなやつの眷属化による影響なんてない。もう治る』

ずっと黙っていたフリーから突然声が聞こえてきて、リィンは思わずくすっと笑ってしまう。

「どうした?」

「フリーが、あんなのやつの影響なんてない、だって」

「ふふ、そうか。それなら安心だな」

戦いの時とは一転、穏やかにツァリが笑う。

鎧も外し、白いワンピースのような服をきているものだから雰囲気がだいぶ違う。

「ツァリは大人のお姉さんって感じだね」

「な、なんだ突然……!」

「ちょっと子供っぽいところもあるけど……」

「ほめているのか貶しているのかどっちなんだ……?」

「ほめてるよ」

「そうか……。釈然としないが、一応礼を言っておく」

そういうとツァリは立ち上がり、深々とリィンに頭を下げる。

「ちょ、ちょっとそこまで礼を言われるようなこと言ってないよ?」

「違う。カルネスのことだ。そして、この孤児院に住む子供たちを守ってくれて、感謝する」

「やめてよ……。私は、カルネスを助けることができたわけじゃない。子供たちも……」

オーガや合成魔獣に食べられてしまった子供たちはもう戻ってこない。

当然、カルネスも。

「それでもだ。フリーとリィンがここにいなかったらもっと大きな被害がでていた。おそらく、聖都もただではすまなかっただろう。犠牲になってしまった子供たちは確かにいるが……聖都に被害がでなかったのは間違いなく2人の功績だ」

「守護騎士さんたちも魔獣の群れ相手に戦ってたんでしょ?」

「まぁ、我々は守護騎士だからな。守るのは当たり前だ」

「私たちも、子供だから守っただけだよ。聖都はついで」

「ついで、で聖都一つを守り抜くことができるのは、2人ぐらいなものだろうな」


守れなかったもの。

救えなかったものは確かに多い。


それでも。


下手をしたら聖都が丸々魔人に乗っ取られていたかもしれない事態だ。


2人の功績は大きい。


「アルは明日も忙しいかな?」

「忙しい、だろうな。なにせ魔人が聖都に入りこんでいたんだ。やることは山積みだろう」

「そっか。じゃあまだしばらく冒険にはいけないね」

「うっ……まぁ、それは、我々守護騎士の立場から言わせてもらうとできればやめていただきたいのだが…………」

本当にやめてほしいのだろう。

ツァリの表情が苦いものへと変わる。

「ツァリも来たらいいじゃない」

「私は門番だからな。そう易々と持ち場を離れるわけにはいかん」

「もう一人の、カイン?だっけ。彼ならなんか喜んでついてきそうだけどね」

「ああ……カインは、そうだな……喜んで、とまではいかないかもしれないがついていくとは言いそうだな」

まぁその時は殴って止めるが。

と、小さく呟かれた言葉は聞こえないふりをした。


「孤児院もどうなるのかな?」

「そこは大丈夫だ。すぐに聖都から支援金がでて立て直される。それまでは全員、教会で保護することになっている」

「そっか。それなら安心…………?」

「心配するな。教会に魔人の手先がもぐりこんでいる可能性だろ?ダルが眷属化してたものは、ダルを滅したときに解除されている。多少記憶があるようで、かなりの罪悪感を感じて一心不乱に祈っているらしいがな」

「それは……別に操られた人たちが悪いわけじゃないから神様も許してくれるでしょ」

「そうだな。きっと、そうだろうな」


話が途切れたタイミングで、ツァリが立ち上がる。

「さ、そろそろ休もう。今日はもう疲れた」

「だね。明日起きれるか心配だよ」

「はは、特に予定もないのだろう?寝たいだけ寝ていればいいさ」

「いいね、それ」

「ただ……」


ツァリが言葉を区切って周囲を見る。


「起きた子供たちに起こされる可能性はあるがな」

「確かに」


というか確実に起こされるだろう。


まぁ、それはそれでいいか。


そんな気持ちをもって、リィンはベッドに横たわる。


「じゃあな、リィン。この聖都を守ってくれて、本当に感謝している」

「それはもういいよ」

「謙虚なやつだ。じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ~」


パタン、とドアが閉まりツァリがでていく。

おやすみ、とはいったものの、ツァリもまだ寝ることはないだろうなと思った。

自分も、寝れる……


寝れるな。


眠たいわ、私。


フリー起きてる?

『起きてる』

どうする?2人とも寝る?

『もうだいぶ回復したから大丈夫。一応起きとく』

OK~。でもあんまり無理したらダメだよ。どんな悪影響が残っているかわからないんだから。

『大丈夫』

ならいいけど……。じゃあ、私は寝まーす。おやすみ、フリー。

「うん、おやすみ。リィン」



それと、ありがとう……。



フリーの小さな呟きは誰にも聞こえない。

読んでくださりありがとうございます。


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