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純なる浄化の光

生えてきた腕を振り回し、手をにぎにぎしてお腹の傷も確認する。


すべて無事に再生していることを確認すると、うん、と一つうなづく。


「なんか気持ち悪い感覚だったけど、治ったからなんでもいいでしょ」

「リィン……ほんと、でたらめな……」


欠損部位を完全に治療するなど、上位の神聖魔法をもってしてもかなりの時間がかかってしまう。

それをあんな短時間で。

呆れ半分、驚愕半分なアウルディアに、リィンはにひひと笑う。


「転生者がチートを持っているのはテンプレだからね」

「なんですかそれ?でも、無事でよかった……」

「うん、ありがとうアル。回復魔法かけてくれて。あとは……」


リィンの言葉が一旦途切れ、一瞬で二回りも大きな双頭の黒狼へと獣化する。

吠える狼の遠吠えが空気を揺らす。


「これが、フリーとリィンが獣化した姿……」


自分の隣に立つ双頭の黒狼。一方の頭が、こちらを見て笑う。


「びっくりした?」


見た目はどっちがどっちかなんてわからないが、口調がリィンのそれだった。

厳つい顔から発せられる少女の声というギャップに戸惑いながらも、アウルディアは笑い返す。


「びっくりは、もちろんしましたけど納得もしました」

「まさか双頭の狼人族とは……どうなっているのかわからんが、とにかく今は――」


アルの神聖魔法により腕を治してもらったツァリが、改めて魔人を睨み見る。


フリーとリィンが牙を向け、

ツァリが光の剣を構え、

アルが祈りの仕草を取り、


「あいつをぶっ殺す!!!」



魔人ダルとの戦いが始まる―――


だが、


フリーとツァリが近接で猛攻を仕掛け、時折リィンが魔法を放つも、ダルはのらりくらりとすべてかわしてしまう。

防御魔法に、闇を介しての移動。


攻撃を防ぎ、かわし、移動して距離をおく。


「この……!ちょこまかと!」


ツァリが振るった剣の軌跡から、光の矢が幾本も飛ぶが闇の壁に遮られる。

アウルディアの神聖魔法が闇を払い、フリーが距離をつめて鋭い爪で腕を切り裂く。


血が噴き出ても、ダルはにやりと笑うだけ。

自身から流れる血を一舐めして、すぐに塞いでしまう。


(時間稼ぎ、かな)

(きっとそう。私たちは全員ボロボロ。あいつは守りに徹しているだけでいい)

(ドレアムみたいにゴリゴリ攻めてくれた方がまだ対処しやいね)


体力、魔力、共に減っている自分たちだ。

消耗戦になると不利は必然。

それは、アウルディアもツァリもわかっていた。


「埒があかないな」


荒い息を吐きながら、ツァリがフリーたちの元へとくる。


「あいつほんと逃げまわるのが上手」

「我々を消耗させようとしているのがありありと伝わるな」


わかってはいるが思うように攻めきれないもどかしさを、ツァリも味わっていた。


「消耗、そして焦りからでる隙を伺っているのでしょう」

「徹底的に、私たちと正面から戦うつもりはなさそうだね。ほんと、嫌なやつ!」


リィンらしき左の首がぐるると唸る。


「作戦会議ですか?」


自分たちから少し離れたところに立ち、にやけた笑みを浮かべながらこちらをみてくる。


「臆病者は黙ってみてなさい!」


リィンが挑発的な言葉を返してもにやにやと笑うだけ。


「おぉ、怖い。ええ、私は臆病者で弱いのですよ。だからこそ、あなた方3人と正面から戦うなどとてもとても。恐ろしくてできませんよ」

「どの口が……!」


ツァリが咄嗟に剣を振ろうとして、その手をアウルディアに止められる。


「無駄に力を使ってはいけません。それこそ、やつの思うつぼです」

「そうでした……申し訳ありません、アウルディア様」


ふっと軽く息を吐き、己の感情を一旦落ち着かせる。


「私は距離を置いて見ていましたが、やつはツァリの一撃を警戒しています。加護の力が備わった一撃は、魔人に対して特効効果を持ちます。言葉通り、やつの戦闘能力はそこまで高くない姑息なタイプ。ツァリの一撃が決まれば形成は一気に逆転するでしょう」

「ならば私がなんとしてでも一撃を……!」

「いえ、おそらくツァリとあの魔人の相性はよくありません。小賢しくて姑息な戦い方をしてくるやつに、弄ばれてしまうでしょう」

「そ、それは私が単純ということですか……?」

「…………なので、フリーとリィンが隙をつくり、そこにツァリが一撃を決める、というふりをして本命の一撃をフリーが入れてください」

「なーるほど。二段構えってことね」

「最後に私が神聖魔法を撃ちますから、三段構えですね」

「あの、アウルディア様?返答は?」

「今はそんなこと気にしている場合ではありません。行きますよ、ツァリ!」

「は、はい……!」

「強引に押し切った」

「単純だねぇ」

「こら、2人とも!余計なこと言わない!」

「ま、私たちもいい加減イライラしてきたところだからね」

「あのむかつく顔に一撃叩きこむ」

「じゃ、やりましょうか」


と、リィンがつぶやいた瞬間に一気にダルとの距離を詰める。


「おやおや、せっかく作戦会議の間待ってあげていたというのに不意打ちとは」

「な~にが待ってあげてた、よ!魔力回復させているの知ってるんだからね!」


両手の爪による鋭い連撃。

力と速度によるごり押し。大きな一撃は与えられないが、細かい裂傷はいくつも与え、血しぶきが飛ぶ。

さらに、リィンの方は隙を作るためにあえて小さく、量を増やすことを意識した炎弾を多数作り出す。

弾幕のように上下左右、あらゆる方向から炎弾を撃ち込む。

致命傷には至らないが、うっとおしそうに炎弾を防いでいる。


「やはり、あなたの強さは常軌を逸している」

「お前に褒められてもうれしくない」

「弾けとべ!炎の弾丸(フレイム・ブレッド)!!」

リィンの口から放たれた大型の炎弾がダルに直撃し、爆発する。

直撃はしたものの、魔人は魔法耐性が高いのでこの程度ではダメージを与えられていないだろう。


爆炎が晴れる―――


その前に、距離を詰めていたツァリの剣が、一際眩い輝きを放つ。


「闇を切り裂け!月の剣(クレッセント・ムーン)!」


ツァリが振るった剣の軌跡が、三日月のように広がり爆炎ごと闇を切り払う。


晴れた視界の中で、一際濃い闇の塊がある。


「いや危ないところでした。もしあなたが全力ならば、この闇ごと切り払われていたことでしょう」


闇が散り、中から無傷のダルが現れる。


「惜しかったですねぇ、本当に」


愉快そうに顔を歪めて笑うダル。



その左腕が、宙に舞った。


「油断しすぎ」


赤黒い血が大量に吹き出し、


「ぐっ……!」


一旦距離を置こうとするダルよりもはやく、フリーの爪がダルの腹部を貫いた。


「さっきのお返し」


ずぼっと爪を引き抜き、


「串刺しになっちゃえ!」


リィンが土魔法を発動させて、地面が生えた土の槍がダルを地面につなぎとめる。


そこに、


「純光よ、悪しきものを浄化し給え。純なる浄化の光(ピュリタス・レイ)!」



光が降り注ぐ。


何色にも染まっていない純粋な光がやさしく、静かに落ち、世界がほんの一瞬、祈りのよう澄み渡る。



舞い散る残光がゆっくりと溶け、空気は清らかなぬくもりに変わった。

読んでくださりありがとうございます。


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