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邪悪魔法

必死に回復を続けながらも、アウルディアはツァリとダルの戦いを見ていた。

さきほどの戦いの直後だ。

ツァリが消耗しているのはわかっている。

自分だってそうだ。


魔人との連戦。


魔に魅入られ、人を超えた者。

魔人1人を倒すだけでもかなり消耗してしまったのだ。


それが連戦

普通に考えたら勝てるはずがない。


だが、アウルディアの目にはツァリが押しているように見えた。

鋭く振られるツァリの剣に、ダルは防戦一方になっている。


ここに、フリーと私が加われば……!


勝てるかもしれない、そんな希望が見えてくる。


「き、気をつけて……」


アウルディアが少しだけ緩んだ気配を見せた瞬間、フリーから注意を促す言葉が聞こえ、


「アウルディア様!」


ツァリから焦燥を含んだ叫び声が聞こえる。

咄嗟に、アルは回復魔法を止め、フリーごと光の膜で覆う。


ガキィィィン―――


光の膜が2人を覆った瞬間、甲高い音が響き、自分の防御魔法がダルの放った闇魔法を防いだことを理解した。

逸る心臓の音を聞きながら、ダルの方を見る。


「お前の相手は私だ!」

「誰の相手をしようと、私の勝手でしょう?私はこの通り、魔人の中では戦う力が弱くてですね。確実に勝てる相手から始末していきたいのですよ」


傷だらけになり、まだ意識もはっきりと回復していないフリー。

そして、回復につきっきりとなっている自分。

油断したわけではない。だが、わずかな心の隙間を突かれた。


「この、卑怯者め!」

「あなたの騎士道精神はご立派ですがね。私に押し付けないでもらいたい」


激高するツァリの剣戟を受け止めながら困ったように嗤うダル。

アウルディアは理解した。

ツァリが押しているのではない。

ダルは、ツァリのことを相手にしようと思っていないのだ。

適当に相手をしつつ、弱ったものから確実に始末する。

この魔人は、そういうタイプの魔人だと。


気を抜くことはできない。

相手の一挙手一投足見逃さないようにしないと……。


ダルの周囲に浮かぶ漆黒の球体。

蠢く多数の球が一斉に飛ぶ。

自分に飛んでくる、そう思って身構えるツァリだったが、球は明後日の方向へと飛んでいく。アウルディアたちがいる方向とも違う。


狙いをはずしたか?


そんな思いが一瞬頭をよぎるが……


「だめ!!!」


アウルディアの悲鳴が聞こえたことで、魔人の狙いをすぐに察する。


「この、外道めぇぇぇ!!!」


魔人ダルが狙ったのは、壊れていない孤児院の一角。

そこには、フリーが決死の思いで守った子供たちがいる。

結界により守られてはいるが、魔人の攻撃をまともに喰らったらどうなるかわからない。

なにもかもかなぐり捨てて、走り、漆黒の球体を両断していく。

だがどうしても一発だけ防ぐことができない。


ならば……!


伸ばされた腕が、漆黒の球に当たり、爆発する。


「ぐぅ……!」


なんとか吹き飛ばされずに済んだが、それでもひどい有様だった。

肘周辺の肉は吹き飛び、骨がむき出しになっている。

肉の焼ける嫌な臭いが鼻腔をつく。


なるほど……。


一撃を食らい、ツァリは理解した。

疲労困憊な自分とも互角程度の魔人に、なぜフリーがあれだけの大怪我を負わされたのか。


パチパチパチ……


不釣り合いな拍手の音が響く。


「いやさすがは守護騎士様。身を挺してでも子供たちを守るなんて。あぁ、ですが、残念ですねぇ。その行為はもう見飽きました」

「やはりか……貴様……!」


見飽きた、その言葉が意味するところは。


「貴様だけは、許さん……!」

「ふふ、その言葉も、聞き飽きましたよ。許さなかったらどうするというのですか?子供たちの命と引き換えに、私を殺しますか?」


怒りが、体中を駆け巡る。

だが、ここで怒りに任せて突撃したら、間違いなく子供たちに被害がでる。

一矢を報いることができるかもしれないが、それでは意味がない。


「本当に、不便な生き物ですね。人間というのは。矮小な身でありながら、他者を守ろうとする。自らの命と引き換えに。理解に苦しみます」


わざとらしく肩をすくめ、首を振る。


「あなたにはわからないでしょうね。人間は、守るものがいるから頑張れるんですよ」


闇を晴らすような、澄んだ声。

ツァリの横に立つ、聖女アウルディア。

祈りと共に、子供たちを守る結界が一際輝きを放つ。

元々あった結界に、さらに重ね掛け。リィンが張ったものとは練度が全く違う結界。魔人の攻撃を多少食らってもびくともしないだろう。


「おや、獣人の治療はあきらめたのですか?」

「いいえ。……ふふ、やっぱり彼女は計り知れません。本当に、どこが『ただの獣人』なのでしょうか?」


アウルディアの言っている意味が理解できず、ダルがいまだ横たわっているフリーを見る。

そこにあったのは、フリーの姿ではなく自分たちがよく使う漆黒の球体。


「まさかあれは、邪悪魔法……?」

「ダークヒールと、彼女は言っていました。何度もみたから覚えたそうですよ?」


驚愕に目を見開くダル。


どろりと黒い塊が形を変え、ずるり、と人の輪郭を生み出す。



―――ダルが子供たちのいる場所に攻撃を放った時、焦るアウルディアにフリーから、いや正確にはリィンから声をかけられた。


「アル、もう大丈夫」

「で、ですが……」


アウルディアの目から見たら全く大丈夫ではない。

血こそ止まり、軽い怪我ぐらいは治っているが欠損部位などの治療までは全くできない。


自分はもうダメだから、ツァリの援護をしてやれ。


そう言いたいのだろうかと思ったが、続くリィンの言葉は意外なものだった。


「さっき散々戦ったからね。私も覚えたの」

「覚えたって、なにを……?」


倒れているリィンの腕が闇の魔力に包まれる。離れて落ちていた腕も闇に包まれ、一瞬でこちらに飛んでくる。

左目があった場所にも、闇が集まる。


「邪悪魔法ダークヒール、っていってたかな。ネーミングセンスないよね」


そして、リィンの全身は闇に包まれていった―――




闇から降り立ったリィンが目を開く。

紫色の瞳が煌々と輝き、周囲に残っていた闇の残滓は吸収されるようにリィンの身体の中に消えていく。


その身体に欠損箇所はなく、完全に再生していた。


リィン「邪悪魔法っていうネーミングだけは変えたい」

フリー「リィンならなんてつけるの?」

リィン「暗黒魔法とか、黒魔術とか、呪術とか……」

フリー「あんまり大差ないような気がする」

リィン「むむむ……」


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